【井伏 鱒二】
「勧酒」 干武陵
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
うまい訳詩ですね。
この詩は干武陵の漢詩を訳したものですが、原詩なんかどこかに吹っ飛んでしまうくらい大胆な意訳をしています。
だから、あえて干武陵の名を挙げずに井伏鱒二の詩として紹介しました。
それにしても、「サヨナラ」ダケガ人生ダ、ですか・・・
そうですか、サヨナラだけが人生ですか。
哀しいね。酒でも飲まなければやりきれませんね。
どうかなみなみ注がせて下さい。
「静夜思」 李白
ネマノウチカラフト気ガツケバ
霜カトオモフイイ月アカリ
ノキバノ月ヲミルニツケ
ザイシヨノコトガ気ニカカル
あゝこれも良い訳詩ですね。
「ネマ」は「寝間」のこと、「ザイシヨ」は「在所」で故郷のことです。
李白の詩もこうやって訳してもらうと、そもそもが五言絶句で韻も踏んでいるわけだし、中国の人々に愛されているわけが分かりますね。
ちなみに「ザイシヨノコトガ気ニカカル」という部分の原文は「低頭思故郷」です。
直訳すると「こうべを垂れて故郷を思う」だけれど、「ザイシヨノコトガ気ニカカル」のほうがずっと素敵ですね。
「田家春望思」 高適
ウチヲデテミリヤアテドモナイガ
正月キブンガドコニモミエタ
トコロガ会ヒタイヒトモナク
アサガヤアタリデ大ザケノンダ
エエッ?阿佐ヶ谷辺りで大酒飲んだ、って?
これも原文を見ると「高陽一酒徒」ですと! 「絶句」しますよ。(←ここオヤジギャグ)
これらの訳詩は井伏鱒二の「厄除け詩集」の中に収められています。
他にもたくさんの素敵な訳詩がありますから、他の作品を見たい方や原文を見たい方は是非本屋で探してみてください。
名作だから途切れることなく出版されていますよ。