【安西 冬衛】


 「春」

 てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った


 たったこれだけの詩です。
 こういう詩を短詩と言うのでしょうか、あるいは一行詩と言うのでしょうか。
 「てふてふ」は「ちょうちょう」と読みます。もちろん蝶々のことです。
 「韃靼海峡」は「だったんかいきょう」と読み、今で言う間宮海峡のことです。
 この、海峡を渡る蝶々のイメージは余りにも鮮烈で、そのイメージが頭にこびりついたまま離れません。
 こうしたスケールの大きさは詩人天性のものでしょうが、他には松尾芭蕉くらいしか思い当たりません。
 安西冬衛と言えばこの詩、と言われるくらい有名な詩ですが、私はこの詩人の他の詩を読みたいという気持ちにどうしてもなれません。
 他の詩を読んで、イメージが壊れるのを恐れているからなのでしょう。
 でもいずれ挑戦してみたいとは思っています。