【ブリューゲル『バベルの塔』展】(上野 東京都美術館)


 2017年4月18日から7月2日まで、東京都美術館で「ブリューゲル『バベルの塔』展」が開催されました。
 ブリューゲルの「バベルの塔」は大変有名な絵ですが、実は2枚存在します。
 その内の一枚、オランダのロッテルダムにあるボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館が所蔵する「バベルの塔」が来日したのです。
 この絵は1993年にも一度、日本に来ています。
 当時、池袋の西武百貨店内にあった「セゾン美術館」で開催された「ボイマンス美術館展」で来日していました。
 私はその時にも見に行って、この絵に感激した覚えがあるのですが、今回東京都美術館でもう一度見られると知り、いそいそと出かけました。

 展覧会場に行って驚きました。
 左の画像を見てください。右側に天井まで届くほどの大きな湾曲したパネルがあります。これは「バベルの塔」の一部分を拡大印刷したものです。
 左端に写っている人の大きさと比べるとその大きさが分かるでしょう。
 こんなに大きく拡大しても絵が破綻しないばかりか、描かれている人の姿もきちんと識別できるのです。
 畏怖感すらありますね。だって原画のサイズは60×75cmなのですよ。
 実際の絵に近付いてしげしげと見ると、ああ確かに無数の人々が描かれています。
 階段を登る人、座っている人、材料を運んでいる人、壁を作っている人、・・・蟻よりも小さい人たちが一生懸命バベルの塔を建設しているのです。
 描かれている人の数を数えた人がいて、およそ1400人の人が描かれていたそうです。
 元よりフランドル派の画家たちは細密描写に長けているのですが、その中でもブリューゲルの技術は飛び抜けていますね。

 さて、もう一枚の「バベルの塔」はウィーン美術史美術館にあります。
 ウィーン美術史美術館にはブリューゲルの絵ばかりを20枚以上展示した部屋があり、そこには「農民の結婚式」や「雪中の狩人」など有名な作品がたくさん展示されていますが、その中でも緻密さと壮大さという点で最高の作品が「バベルの塔」です。
 ウィーン美術史美術館の「バベルの塔」(大バベル)はボイマンス美術館の「バベルの塔」(小バベル)よりも4倍ほど大きい114×155cmのサイズがあります。
 せっかくですから2枚の「バベルの塔」をサイズの違いを無視して並べてみましょう。

 左が「ウィーン美術史美術館」の大バベル、右側が今回来日した「ボイマンス美術館」の小バベルです。
 さすがにサイズが違うので大バベルのほうが情報量が多く、工事中の様々な段階を事細かに見せてくれます。
 しかし今回、小バベルをしげしげと見て、さらに大きく拡大されたパネルを見て、小バベルと言えども侮れないなと感嘆しました。

 ところで、ブリューゲルに大きな影響を与えた奇想の画家ヒエロニムス・ボスの真筆は、25点しか現存していないと言われています。
 ボイマンス美術館はそのうちの2枚を所蔵し、その2枚が揃って今回の展覧会で来日しました。
 作品はいずれも小振りなもので、有名な「快楽の園」のようなインパクトはありませんが、めったに見ることが出来ない貴重な作品だけに多くの人が絵の前に群がっていました。

 この画像は本展の図録です。
 図録の最終ページが袋とじになっていて、そこに「バベルの塔」の原寸大のポスターが入っていました。
 これは嬉しいおまけでした。

(2025.01.12記)