【エドゥアール・マネ 「散歩(ガンビー夫人)」】(東京都 東京富士美術館)
「マネを印象派の画家に入れて良いのか?」という疑問がいつも付いてまわります。
クロード・モネとの年齢差はたった8歳だし、マネはあの印象派の大きなうねりの先頭に立っていた印象があります。
けれどもマネは一度も印象派展に絵を出品していません。
たとえ落選しても酷評されてもサロンに出品し続けていたのです。
マネの代表作である「草上の昼食」や「オランピア」などの作品は到底、印象派の作品とは思えません。
しかし晩年の「フォリー・ベルジェールのバー」になるとグッと印象派っぽくなるのです。
前者は古典派っぽい画法、後者が印象派っぽい画法だとすれば、ちょうどその狭間に生きた画家だと言えるでしょう。
マネは上記のような絵画史に輝く作品を残している一方、作品数はあまり多くないように思います。
他の画家が自分の絵にたどり着いた全盛期にたくさんの絵を描きまくっていたのに対し、マネはそこに固執することなく、次の新しい世界に挑み続けていたのでしょうか。
ということで、日本でも人気の高いマネですが、国内にはそれほど多くのマネ作品がありません。
その中で私が選んだ一枚は「東京富士美術館」が所蔵する「散歩(ガンビー夫人)」です。
ザックリと描かれた緑の庭を、澄まして歩く黒服の女性。この絵のモデルは当時病気療養中だったマネの見舞いに訪れた知人だそうです。
この時期、マネはこうした女性像を他にも描いており、それは国内にも何枚かあります。
吉野石膏コレクションにある「イザベル・ルモニエ嬢の肖像」や、メナード美術館にある「黒い帽子のマルタン夫人」や、ひろしま美術館にある「灰色の羽根帽子の婦人」などがそうですが、その中で一番出来が良いのが「散歩(ガンビー夫人)」だと私は思います。
マネは1883年に51歳の若さで亡くなりました。
晩年は足の痛みに耐えながらの画作だったそうです。
マネの傑作「フォリー・ベルジェールのバー」は亡くなる前年に描かれた作品で、「散歩(ガンビー夫人)」はさらにその前年もしくは前々年の作品とされています。
実はマネの作品はもう一点日本にあるはずでした。
それは「ビールを運ぶ女給」という絵(左の画像)で、本来は松方コレクションの一枚ですが、日本に返還される際にフランス政府に接収されてしまいました。
現在はオルセー美術館に展示されています。
(2024.12記)