【ボッティチェリ 「美しきシモネッタの肖像」】(東京都 丸紅ギャラリー)
「美しきシモネッタの肖像」は、「ヴィーナスの誕生」や「春」(共にウフィツィ美術館)で有名なボッティチェリが描いた世にも美しい肖像画です。
美しい肖像画と言えば、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた神秘の「モナリザ」や、フェルメールが描いた愛らしい「真珠の耳飾りの少女」などがありますが、ボッティチェリの「美しきシモネッタの肖像」は題名通り美しさに満ち溢れた肖像画です。
この絵のモデルになったシモネッタ・ヴェスプッチは、1475年に豪華王ロレンツォ・ディ・メディチが主催した「大馬上槍試合」で美の女王に選ばれた絶世の美女です。
シモネッタは当時すでに結婚をしておりましたが、この試合の勝利者となったロレンツォの弟ジュリアーノと恋人同士になったと噂されました。
今でいえば不倫ですが、当時は浮名と言って結構許される風潮があったようですね。
ところがシモネッタはその翌年の1476年に肺の病で22歳の若さで夭折してしまい、ジュリアーノもまた、その3年後にメディチ家と対立するパッツィ家の陰謀で命を落としてしまいます。
そうした悲劇の故か、まるでシェークスピアの「ロミオとジュリエット」のように、死んだ後も人々の脳裏から去らなかったのでしょう。
この絵はシモネッタが亡くなってから数年後に、当時メディチ家の庇護を受けていたボッティチェリが描いた作品です。
まだ人々の(特に画家の)脳裏から去らないうちに描かれたものですから、いくらか美化はされていたとしても実物とあまり変わらない肖像画であるに違いありません。
凛とした美しさと意思の強そうな表情がその横顔から見てとれます。
こちらを向いて正面から話しかけてこられたら、きっとドギマギすることでしょう。
ところでこの絵は総合商社の丸紅が所有しています。(国内にあるボッティチェリの絵画はこの1枚だけだそうです)
かつて丸紅が絵画ビジネスに手を染めていたころに仕入れた一枚です。
ある美術館への販売が決まっていたのですが、にわかに持ち上がった贋作騒動で丸紅は売却を取りやめました。
結局は真作であることが証明されたのですが、丸紅は売却することをやめてその後もそのまま手許に残してておくことにしました。
おかげで私たちは日本に居ながらにしてこの美しい肖像画を何度も目にすることができるという恩恵に浴しています。
ただしテンペラ画が長期の展示を嫌うということで、この絵は常設展示されておりません。
これまで(2008年11月現在)に5回展示されたことがあるそうですが、私はそのうちの3回を見に行きました。
何度見ても溜息が出る美しさです。
(おまけ)
2009年12月にフランクフルトのシュテーデル美術館を訪れた時、折よく「ボッティチェリ展」が開催されていました。
なんでも、ボッティチェリの没後500年を記念して2009年11月から2010年2月まで開催されていたとか。ラッキーでした。
ボッティチェリ展は日本でも2016年に東京都美術館で開催され、20点ほどのボッティチェリの作品が展示されて話題になりましたが、シュテーデル美術館で開催されたボッティチェリ展はその数倍の規模となるものでした。
もともとシュテーデル美術館には丸紅のものと同じシモネッタがモデルとされる「女性理想像」という絵画があり、その絵は丸紅のものに引けを取らない美しい肖像画でした。
豪華さで言えばシュテーデルの作品、清楚さで言えば丸紅の作品、といったところでしょうか。
つくづく2枚を並べて展示してほしかったなと思いました。(丸紅に展示依頼は来なかったのかなあ?)
ボッティチェリ展に酔いしれたため、危うく本来の目的であるフェルメールの「地理学者」を見落とすところでしたよ。
こちらの方はガラガラで、フェルメールを独り占めできました。