【砲艦サンパブロ】

製作1966年 ・ アメリカ映画 (20世紀フォックス製作)
監督ロバート・ワイズ(他に「傷だらけの栄光」「ウエストサイド物語」「サウンド・オブ・ミュージック」など)
出演スティーブ・マックィーン、リチャード・アッテンボロー、キャンディス・バーゲン、マコ
原題THE SAND PEBBLES
栄誉アカデミー賞(候補):作品賞、主演男優賞(スティーブ・マックィーン)、助演男優賞(マコ)、美術賞、撮影賞、編集賞、作曲賞、音響賞
上映時間195分(ただしDVD化されているのは182分バージョン)
私の評価8点


 「砲艦サンパブロ」の舞台となった1926年の中国は、清王朝が滅び、国内が混乱していました。
 孫文亡き後の国民党を率いた蒋介石の軍は外国勢力の排除に躍起となっていました。
 そうした中国情勢の中、アメリカは清王朝時代に得た利権および中国に在住するアメリカ人を守るために砲艦サンパブロ号を揚子江に派遣していました。
 そんな時にサンパブロ号に赴任してきたのがスティーブ・マックィーン扮するジェイク・ホールマン一等機関兵でした。
 映画は、一触即発の状況の中でジェイクが引き起こす騒動や、中国奥地で活動する宣教師たちの救出、さらには乗組員と現地の中国人女性との悲恋などを織り混ぜて終局に向かっていきます。

 この映画は1926年の出来事として描かれていますが、それは映画が公開された1966年のわずか40年前のことです。
 そんなに近い時代の物語だったということに驚きます。
 映画公開当時のアメリカはベトナム戦争の泥沼状態にありました。
 そんな時、この映画における中国を当時のベトナムとダブらせて、政府への批判ととらえる人もいました。
 映画の最終盤、中国の最深部の伝道所で一人残ったジェイクがついに銃で撃たれて死んでしまいます。
 彼の最後の言葉「国にいたのに なぜ ここへ どうしてなんだよ」
 この言葉は海外に派兵されてそこで死んでいった兵隊たちの共通の言葉でしょう。
 当然にベトナムで死んでいったアメリカ兵の姿がオーバーラップします。
 本映画がアカデミー賞で8部門にノミネートされながら一つも受賞できなかったのは、案外そんなところに原因があったのかもしれません。
 私の評価は8点です。面白い映画でした。

【195分版の存在】
 私が最初にこの映画を観たのは試写会でした。
 それがとても面白かったのでロードショー公開時にも映画館に行って観ました。
 その時に映画が短くなっていることに気がついたのです。
 映画のクライマックスで、封鎖された揚子江をサンパブロ号が突破するシーンがあります。
 私の記憶では、試写会では1回目の攻撃では退かれて、2回目で成功するのですが、ロードショー公開時には1回で突破していたのです。
 カットされたシーンは他にもあったかもしれないと、なんとなくモヤモヤした気分がしました。
 最近知ったことですが、そのことはアメリカでも話題になっていて、カットされたシーンの復活を望む声があったそうです。
 その時分かったことは、アメリカでロードショー公開された時はオリジナルの195分版を上映し、その後上映館を増やして一般公開された時は一部カットされた182分版を上映したようです。
 私が試写会で観たのはオリジナルのバージョンで、その後にロードショー公開されたのは一部カットされたバージョンだったのですね。
 それが分かって若干スッキリはしましたが、それなら「やっぱりオリジナルをもう一度観たい」とモヤモヤ感が残りました。
 そしてようやく2007年にアメリカで195分版の映像を収めた2枚組のDVDが発売されたのです。
 でもね、日本では未だに182分版しか販売されていないのですよ。
 たかが13分、されど13分、私のモヤモヤはまだ続いています。

【ロバート・ワイズ監督の思い】
 ロバート・ワイズ監督と言えば「ウエストサイド物語」や「サウンド・オブ・ミュージック」などミュージカル映画の巨匠として知られています。
 でも良く見ると「ウエストサイド物語」は移民問題と人種差別をテーマにした悲恋物語ですし、「サウンド・オブ・ミュージック」もナチスドイツを批難して国外脱出する一家の物語です。
 さらに遡れば「傷だらけの栄光」や「私は死にたくない」「拳銃の報酬」など、ロバート・ワイズ監督の本質は社会派の監督であることが分かります。
 そのロバート・ワイズ監督が「砲艦サンパブロ」の原作に惚れ込んで映画化権を獲得したのは、この原作が持つ社会性に共感したからでしょう。
 ロバート・ワイズ監督は「ウエストサイド物語」の後に、「砲艦サンパブロ」の制作に取り組みますが、膨大な制作費用が見込まれることからどこの映画会社も難色を示し、映画化の話は宙に浮いてしまいました。
 そんな折、20世紀フォックス社が「サウンド・オブ・ミュージック」の監督を引き受けてくれるなら「砲艦サンパブロ」を映画化するという条件を提示しました。
 結果的に20世紀フォックス社は一挙両得をしましたね。

【出演者たちのその後】
 主演男優のスティーブ・マックィーンについては本作の前にも後にも大活躍をしていますが、意外なことにアカデミー賞にノミネートされたのは本作だけでした。

 主演女優のキャンディス・バーゲンは本作と次作の「パリのめぐり逢い」で素晴らしい輝きを見せましたが、その後はあまり良い作品には恵まれませんでした。

 中国人の見習い機関士を演じたマコ(マコ岩松)は本作でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、一躍有名になりました。そのおかげでか日米それぞれで多くの映画に出演しています。1994年にはハリウッドの殿堂ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに名前が刻まれました。

 現地の中国人女性と恋仲になるサンパブロ号の乗組員を演じたリチャード・アッテンボローは、本作と次作でゴールデングローブ賞の助演男優賞を2年連続で受賞します。その後は監督業に転身し、1982年公開の「ガンジー」でアカデミー監督賞を受賞しました。イギリス出身の彼は1976年にナイトの称号を受け、1993年には一代限りの男爵の爵位を受けています。

 リチャード・アッテンボローの恋人役を演じたタイ出身のマラヤット・アンドリアンヌは、その後、執筆活動に転じました。映画化された「エマニュエル夫人」の原作は彼女の代表作です。

(2024.12記)