【ポセイドン・アドベンチャー】

製作1972年 ・ アメリカ映画(20世紀FOX映画製作)
監督ロナルド・ニーム
出演ジーン・ハックマン、アーネスト・ボーグナイン、シェリー・ウィンタース、レッド・バトンズ、キャロル・リンレー
原題THE POSEIDON ADVENTURE
栄誉アカデミー賞(受賞):歌曲賞、特別業績賞(視覚効果)
アカデミー賞(候補):助演女優賞(シェリー・ウィンタース)、作曲賞、撮影賞、美術賞、録音賞、衣装デザイン賞、編集賞
上映時間117分
私の評価8点


 いわゆる「ハリウッド大作主義」の映画は1956年の「十戎」あたりから始まり「ベン・ハー」など数多くの作品が作られましたが、1963年の「クレオパトラ」でピークを迎えた後は徐々に衰退していきます。
 あまりに費用がかさみ過ぎて製作会社がネを上げたからとも観客が歴史劇に飽きたからとも言われています。
 それが1970年代になると「パニック映画」という形で復活します。
 その代表的な映画の一つがこの「ポセイドン・アドベンチャー」です。
 この時代のパニック映画の特徴は「設定が分かりやすいこと」。
 「大空港」では飛行機の機内で爆弾が爆発し、CAの奮闘で無事に空港に着陸するまでが描かれます。
 「タワーリング・インフェルノ」では火災が発生したビルからどのように脱出するか・・・。
 そしてこの映画では転覆したクルーズ船から主人公たちがどのように生還するか・・・。
 いずれも状況はシンプルであり、その状況の中で次々と困難が襲い掛かかってきます。
 作り物の映画だから最後はハッピーエンドになることは分かっていても、観客は手に汗を握って主人公たちを応援するのです。
 この時代のパニック映画の二つ目の特徴は、本物そっくりに作ったセットで本物の火や水を使って撮影していることです。
 最近のパニック映画と言えばブルースクリーンの前で役者が演技をし、それをCGで加工するのが一般的ですが、それだとやっぱり迫力がありません。俳優たちもどこか安心して演技をしているように見えます。
 ところが当時の映画は、撮影中に「スターが骨折した」だの「火傷した」などといった情報が流れてファンをやきもきさせるのですが、それだけに出来上がった映画は迫力満点で、スター俳優の役者魂に敬意を表したものです。
 そして三つ目の特徴は、脇役に演技派の役者を取り揃えてリアリティを出していることです。
 パニックそのものが映画の主役ですから人間はあまり必要ないと思われがちですが、そんな状況だからこそ人間性がよく出るもので、それをどれだけ上手に演技するかが問われます。
 この映画も脇役に性格俳優のアーネスト・ボーグナインやシェリー・ウィンタースなどを揃え、人間ドラマとしても楽しめる作品になっています。
 ハラハラドキドキするし人間ドラマも優れているし、上々の娯楽映画ということで、私の評価は8点にしました。

【水、水、水】
 この映画の主役は水です。
 上から下から襲い掛かってくる大量の水に主人公たちが逃げ惑うのですが、撮影に使用された水は400万ガロン(約1200万リットル)に上ったそうです。
 いったいどんな量なのか、ロサンゼルスの水道局から「町が水不足になる」とクレームがあったとのことで想像がつきますね。

【なんでも逆さ】
 映画が始まって間もなく、ポセイドン号は大津波に襲われて転覆します。
 横倒しではなく完全に上下ひっくり返った状態ですから、以降は上下逆さになった船内で物語が進行します。
 それが一番よく表現されているのが男子トイレのシーン。小便器(いわゆる朝顔)が天井からずらっとぶら下がっているのです。
 このシーンに観客は皆大笑いでした。
 アカデミー賞で特殊効果賞を受賞したL.B.アボットはこのシーンで受賞したと言われています。

【アメリカ人】
 この映画で違和感があるのは、ジーン・ハックマンが演じる主人公のスコット牧師。
 変にマッチョで独善的で、「生き残りたい奴は俺についてこい」と言って10名足らずの賛同者を率いて船の底部(海面に一番近い場所)をめざして進んでいくのです。
 その結果、数名が船底から救出されるのですが、その裏には数千名の亡くなった人がいるわけで、ちょっと待てよ、牧師って弱い人や怖がっている人に寄り添うのが仕事なんじゃないの?
 こうしたモーゼのような宗教的指導者がアメリカ人は好きなのでしょうか?

(2020.07記)