【ニュー・シネマ・パラダイス】

製作1989年 ・ イタリア、フランス映画
監督ジュゼッペ・トルナトーレ(他に「海の上のピアニスト」「鑑定士と顔のない依頼人」など)
出演フィリップ・ノワレ、ジャック・ペラン、サルヴァトーレ・カシオ
原題Nuovo Cinema Paradiso
栄誉アカデミー賞(受賞):外国語映画賞
上映時間124分
私の評価10点


 映画が全盛だった時代です。
 利発でいたずらっ子のトトは映画が大好き。いつも映写技師のアルフレードの仕事場に出入りしていました。
 ある日、映画館が事故で全焼してしまいます。
 その火災で失明したアルフレードに代ってトトは新築された映画館「ニュー・シネマ・パラダイス」の映写技師になります。
 青年期になったトトは美しい令嬢と出会い、恋人同士になりますが、出征していた一年の間に恋人との仲は裂かれ、映写技師の座も他人に奪われていました。
 失意のトトにアルフレードは「おまえには才能がある。村を出て自分の道を見つけろ。村にはもう戻ってくるな」と諭します。
 アルフレードに背中を押されたトトは列車で村を出るのでした。
 30年後、ローマで映画監督として成功したトトのもとに、「アルフレードが亡くなって明日が葬式だ」という報せが届きます。
 葬式に列席するために田舎に帰ると、待っていたのは懐かしい人々の顔と、古くなって取り壊されようとする映画館でした。
 アルフレードの奥さんから受けけ取った形見は古い映画を繋ぎ合わせたフィルムでした。
 ローマに帰ってから試写室で一人、そのフィルムを上映してもらうとそこに映っていたのは・・・・

 素晴らしい脚本、美しい音楽、達者な俳優、優しい人々、懐かしい世界、そのどれをとっても一流です。
 この映画はかつて映画に心を躍らせたすべての人の胸を熱くさせてくれます。
 私の評価は満点の10点です。

【トト少年】
 本作の主役であるトト少年を選ぶため、シシリー島のパレルモと近隣の町でオーディションが行われました。
 地元に住むサルヴァトーレ・カシオ少年はそのオーディションに応募し、200人以上の中からトト少年の役を得たのです。
 とてもズブの素人とは思えない自然な演技ですが、苦労もあったようで、例えば、ポスターに載っているアルフレードと二人で自転車に乗るシーンは、20回以上のテイクを行なってようやくOKになった、と本人が語っていました。
 本作の後にも数本の映画やテレビドラマに出演しましたが、10代になって俳優業から足を洗い、地元のパラッツォ・アドリアーノで父親と一緒にレストランやホテルなどを経営するようになりました。

【映画音楽】
 本作の音楽を担当したのは映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネです。
 携わった映画はその数を知らず。本作以前に「荒野の用心棒」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」など、心にしみる哀愁のメロディを数多く世の中に出していました。
 そんな巨匠が28歳も年が離れた30歳そこそこの青年のどこが気に入ったのか、その後のジュゼッペ・トルナトーレ作品は必ずと言ってよいほどエンニオ・モリコーネが音楽を担当しています。
 ともあれエンニオ・モリコーネが作った素晴らしい主題曲が、本作をヒットさせた要因になったのは間違いありません。

【出演者のことなど】
 中年になったトトを演じたジャック・ペランは、本作より20年以上も前に「ロシュフォールの恋人たち」というフランス製のミュージカル映画で初々しい姿を見せていました。あの可愛いかった青年がこんなおっさんにねえ。
 中年になったトトのかつての恋人を演じたブリジット・フォッセーは、長尺版の「ディレクターズ・カット版」でしか姿が見られませんが、彼女は本作の37年前に子役で出演した名作「禁じられた遊び」で観客の涙を誘っていました。あの可愛いかった少女がこんなおばさんにねえ。
 映画のラストで主人公が持ち込んだフィルムを受け取って試写室で映写をする技師は本作の監督ジュゼッペ・トルナトーレその人です。こんなに若い監督だったのですね。本作は映画監督として第2作目で、公開時はまだ33歳でした。

【長さによるバージョンの違い】
 本作が1988年に最初にイタリアで公開された時の「オリジナル版」は155分の長さでした。
 しかし興行成績が振るわなかったため、ジュゼッペ・トルナトーレ監督自らが再編集をして短縮版を作りました。
 それが124分の「インターナショナル版」です。
 この短縮版はアカデミー外国語映画賞を受賞するなど国際的な成功を収めました。
 特に日本では「シネスイッチ銀座」において、連続40週(約10か月間)におよぶ単館上映を行ない、動員数約27万人を記録しました。これは単館上映としての最高記録でした。
 その後、2002年にジュゼッペ・トルナトーレ監督自らが編集を行なった173分の「ディレクターズ・カット版」が公開されました。
 「短縮版」がヒットしたのは結構なことだったのですが、脚本も自分で書いたジュゼッペ・トルナトーレ監督としては、本当に作りたかったのはこの「長尺版」だったのでしょう。
 「短縮版」では子供時代のトトに焦点が当てられていましたが、「長尺版」では青年期のトトも丁寧に描かれ、そして壮年になって故郷に帰って来たトトがかつての恋人と再会して積年の謎の答えを知るところも描かれています。
 観る人によってはそれが蛇足に感じ、あるいは謎を明らかにすることによって切ない思い出が消えてしまうように感じる人もいるようです。
 なるほど、そうかもしれませんが、私は一人の男の人生をきちんと描いた「長尺版」の方に軍配を上げます。
 だって「人生はお前が見た映画とは違う。人生はもっと困難なものだ」と、これは映画の中のアルフレードの台詞です。

(2025.01記)