−第31夜− フロートペンの値段
「フロートペンの値段って、どのくらいするの?」と聞かれたことがあります。
その人は「昔は100円くらいで売っていた」とおっしゃるのですが、さすがに私はそんなに安い値段で買ったことはありません。
日本よりも物価が安い国では一本200円前後ということもありましたが、平均すれば一本300円〜400円程度で買っていました。
それが私が盛んに海外旅行をしていた1990年から2010年頃にかけてのフロートペンの相場でした。
その時代(1990年代初頭からの約30年間)は「失われた30年」などと言われたりもしますが、物価が安定して生活がしやすかったし、円高が続いたので海外旅行もしやすかった時代でした。
海外旅行をすると、その国や町を訪れた記念に、ある人はピンバッジを買い、ある人は冷蔵庫のマグネットを買い、そして私はフロートペンを買っていました。
当時の欧米諸国はどこに行ってもフロートペンを売っていたので、コレクションアイテムとして最適だったのです。
一本300円〜400円という値段も他のボールペン類と比べて大差ないし、冷蔵庫のマグネットよりも安く、ピンバッジよりも若干高い値段でした。
「ほら、こんなふうに動くんだよ」と見せながら人にあげるのも、貰うのも、気楽なものでした。
その頃、日本ではフロートペンの最初のブームが過ぎた後で、「ご当地ペン」を見かけることは殆んどありませんでした。
東京タワーなどでたまに見かけるフロートペンは、海外で買うのと同じ程度の値段だったように記憶しています。
デンマークから遠く離れた日本でも欧米諸国の値段とあまり変わらなかったのは、当時の円高の影響があったかもしれません。1ドルが80円くらいまで下がったことがありましたからね。
1999年に、長崎のハウステンボスで、デザイナーのボー・ベンディクセンがデザインしたフロートペンを20種類売っていて、その単価が当時としては破格の一本600円でした。
それは、有名デザイナーによるオリジナル商品だからということでしょうが、当時としては驚きの高価格設定でした。
親しくしていたフロートペンの代理店の人と「ルイ・ヴィトンがフロートペンを作ったら一本1万円するかもね」と笑い合いましたが、「冗談ではなく」とも感じていました。
2005年頃から、ヨーロッパでもフロートペンを見かけることが少なくなりました。そして値段が高騰しました。
たまに見つけても、一本500円〜700円が相場で、スイスでは800円の値札が付いたフロートペンもありました。
そんな状況を見ると、ヨーロッパでは既にフロートペンのブームが過ぎ去っているように感じました。
ブームが過ぎた=買う人が減った=売れないから仕入れ量を減らす=仕入単価が上がる=販売価格が上がる=売れなくなる
というような悪循環に陥ったのでしょう。
ではなぜフロートペンのブームが過ぎたのでしょうか?
私がフロートペンを集め始めた当初、私はフロートペンのことを「おもしろ動くボールペン」と呼んでいました。
ほんの6cm足らずの空間の中に小さな劇場があり、人やモノが動くことを面白く思ったのです。
その頃はそんな風に動くものって身近には他にありませんでした。
つまりフロートペンのギミックが大いに受けていた時代だったのです。
ところが時代が移って誰もがスマートフォンを持つようになると、液晶画面の中でいろいろなものが動き回るようになりました。
もはやフロートペンのようなアナログ製品には目もくれなくなってきたのです。
2024年に、Eskesen社が事業を停止したのもそんな背景があったのかもしれません。
そのEskesen社の事業を日本のレトロバンク社が引き継ぎました。
幸いにも日本では企業の販売促進品としてフロートペンを採用する企業が増えています。
先般、東京ビッグサイトで行なわれた「国際文具・紙製品展」に出展したレトロバンク社を訪ねると、同社が手掛けたフロートペンがたくさん展示してありました。
しかも日本を代表するようなメジャーな企業ばかり。
どうやら日本では新たなブームが始まろうとしているのかもしれません。
また、歌手がコンサート会場で販売したり、画家やデザイナーがデザインしたオリジナルのフロートペンなどをネットで販売することも増えるようになりました。
標記の「フロートペンの値段」についてですが、企業の販売促進品についてはそもそも問題ありませんし、歌手やデザイナーのフロートペンはファンの皆さんがその価格で買うのなら1,000円を超える値段でも問題ありません。
しかし、「ご当地もの」のフロートペンについては、私は500円のあたりに高い壁があるように感じます。
私の感覚が古いのかもしれませんが、それ以上の値段になると他の製品(ピンバッジなど)に目が移ってしまうか、もしくはただ単に買わない、という選択をされそうです。
単にボールペンということで言えば、最高の書き味の「JETSTREAM」が100円そこそこで買える時代に、フロートペンの値段は500円でも厳しいのではないでしょうか。
もちろん、フロートペンにおけるボールペンの機能はオマケに過ぎないのですが・・・
ともあれ、近頃はそもそも物を持たない、という人が増えているようですから、コレクターズアイテムという考えそのものが曲がり角に来ているのかもしれません。
この点については別の夜に改めて考察してみたいと思います。
それではまた明晩。