【フロートペンのこと】



 「フロートペン」は世界中の観光地の、土産物屋の片隅でそっと売られています。
 ところがふつうの文房具店では全く取り扱っていないという実に不思議なボールペンです。
 ボールペンの軸のところが透明になっていて、その中に液体が詰められています。
 その液体を水だと言う人もいますが、実際には油が入っています。
 それも、以前は鉱物性の油(mineral oil)を使用していましたが、最近は自然にやさしい植物油に切り替えたということを聞きました。
 丸い軸とそこに詰められた液体による凸レンズ効果で、中に描かれた絵が拡大されて見えます。
 そして、これがこのボールペンの特徴なのですが、ボールペンを左右に傾けたり上下にひっくり返すたびに、液体の中の人や乗り物などがゆっくりと移動(行ったり来たり)するのです。

 私は最初、このボールペンの名前を知らなくて、勝手に「おもしろ動くボールペン」と命名していました。(良いネーミングでしょう?)
 その本当の名前を知ったのは1995年のことで、アメリカで購入したペンのレシートに「Float Pen」と書いてあったので、「なるほど、そういう名前だったのか」と思いました。
 店や国によっては「Floaty Pen」とか「Liquid Pen」などといった別の呼び方がされており、製造会社での正式名称は「Floating Action Pen」というのだそうですが、私はシンプルに「フロートペン」と呼ぶことにしました。

 「フロートペン」はずいぶん昔から身近にあったように思います。
 私が「フロートペン」を初めて見たのは、会社の同僚から貰ったパリの新婚旅行みやげでした。多分、1978年頃ではなかったでしょうか。
 その時のフロートペンはいつの間にかなくしてしまいましたが、その後、1989年に私自身がパリを訪れたときに同じようなボールペンを見つけ、懐かしく思って買い求めました。
 それがこの写真の、セーヌ川のフロートペンで、それが私のフロートペン・コレクションの始まりになりました。
 フロートペン・コレクターはアメリカ人を筆頭に、世界各地にいますが、ベテランのコレクターはごく少数で、たいていは1990年前後にコレクションを始めています。
 それは偶然でしょうか、それともその頃にフロートペンのビッグ・バンがあったのでしょうか?

 「フロートペン」は世界中の至る所で売っていますが、観光地には必ず売っているというものではありません。
 アジアで言えば、例えばシンガポールなどはけっこうたくさんの種類がありますが、中国やタイでは一本も見ることが出来ませんでした。
 東欧諸国やアフリカ諸国もダメなようですね。
 ケニアに行った人の話では、逆に現地の人から「ボールペンがあったら譲ってくれ」と言われたそうです。
 どうもフロートペンどころの余裕はなさそうです。
 日本も経済大国の割には少ない方です。
 過去には観光地などでよく見かけた時期があったようですが、ブームが過ぎてしまったのか、90年代にはすっかり衰退してしまいました。
 最近になって、また少しずつ盛り返してきているようで、大変に嬉しく思っています。
 一方、アメリカでは呆れるほどに数多くの種類が出ています。
 1995年に西海岸を旅行したら、あるわあるわ、それまでに集めたフロートペンと同じくらいの数のフロートペンをたった一週間で手に入れてしまいました。

 世界中で売られている「フロートペン」ですが、製造しているのはデンマークの「Eskesen」という会社です。
 記録によると1951年にESSO(現在のExxon)の広告宣伝品として造られたのが始まりで、それは窓の中を石油缶が上下するという趣向だったようです。
 以来、実に15億本も製造されているそうです。すごい数ですね。
 フロートペンは長らくEskesen社の独占状態でしたが、最近になって、イタリア製のものと、中国製のものが出回りはじめています。
 イタリア製のフロートペンを私が初めて見たのは1994年のことで、パリのデパートでこれを発見したときは「うむ、ついに現れたか」と思ったものでした。
 そのイタリア製のフロートペンは、イタリア本国では既に本家を駆逐してメジャーな位置を占めています。その他、アメリカやオーストラリアなどでもイタリア製のフロートペンを見かけました。
 少し大型のため情報量が多いのが特徴ですが、デザイン的にはやや雑で、Eskesen社ほどの魅力はありません。
 でも、ペンによっては成功しているものもあります。このフロートペンなんか、ローマのコロシアムが上手に表現されているでしょう?
 中国製のものは完全なパクリで、いわゆる海賊版です。軸の中の絵はオリジナルですが、概して下手な絵が多いのが残念です。
 世界各地のチャイナタウン(サンフランシスコやロサンゼルス、シンガポールなど)で見かけることが多く、安いのは結構なのですが、軸が曲がっていたり、中の液体が洩れていたりして要注意です。
 でも、オーストラリアのブルーマウンテン国立公園で売られていたものは、あか抜けたデザインで、本家に近い雰囲気がありました。
 あと10年もしたら、本家と元祖とで競い合う存在に成長するかも知れません。

 フロートペンに一番近いものは「絵葉書」でしょうか。
 絵葉書やフロートペンは普通の店では売っていなくて、大抵、観光客が出没するところに、キーホルダーやピンバッチなどと一緒に売られています。
 地元の人は知らなくて観光客だけが知っている、それが面白いところですね。
 東京のホテルに行ってドラッグストアを覗いて見ると、いろんな絵葉書があってとても楽しいですよ。
 日本や東京が、外国人観光客からどのように見られているかとてもよく分かります。
 それはさておき、フロートペンは何よりも自分の足を現地に運びそこで手に入れたものに勝るものはありません。
 そうして手に入れたフロートペンには思い出がぎっしりと詰まっています。
 例えばこのロンドンのフロートペン。 テームズ川を挟んで川向こうに国会議事堂やビッグベンが見えます。
 私がロンドンを訪れたのは1994年のかんかん照りの暑い日で、アイスクリームをなめながら川辺を歩いていると、テームズ川の向こうからビッグベンの鐘の音がさわやかな風のように流れてきました。
 その鐘の音に誘われてテームズ川に向き直り、私はこのフロートペンとそっくりの光景を頭に刻みこみました。
 今こうやってフロートペンをひっくり返しながら眺めていると、あの日の自分が懐かしく思い出されます。
 Eskesen社のフロートペンが素敵なのは、この写実性ですね。

 次に嬉しいのは、海外旅行のおみやげで貰うってやつ。
 その場合は、フロートペンをくれた人のお土産話がついていて、旅行の話って大概楽しい話が多いから、ニコニコしながら「このペンを見つけたのはどこそこの町で、その教会の前に小さなおみやげやさんがあって・・・」などと話すのを聞いていると、まるで自分もその場所に行ったような気分になってきます。
 例えば左のペン、このペンをくれた人はイタリアに行ったはずなのに、その町は「まるで熱海みたいでね」などと言うものだから、なんだか、熱海の町で青い目の外人さんがうようよしている姿を想像して、「へえ、ヘンなの」と言いつつ、「行ってみたいな」などと思ってしまうのです。 これって、ヘンですか?

 そんなふうに、フロートペンというのは自分の足で現地に出かけて手に入れるか、あるいは旅行のお土産で貰うことが多いのですが、その他にもひょんなことで手に入れてしまうことがあります。
 ある時、原宿を歩いていたら、いかにもアメリカナイズされた雑貨屋さんでフロリダのペンを見つけてしまいました。
 「行ったこともない場所だけどなあ」と思いつつ、つい手が出てしまうのが、フロートペン・コレクターの悲しい性です。
 このペンには、背景にいくつもの建物が描かれているでしょう?
 フロートペンの偉いところは、景色を忠実に描き込んでいることで、これらの建物も、フロリダのこの海岸に行ったことのある人にはきっと見分けが付くのでしょうね。 行ったことのない私には、それが分からないのが何とも歯がゆいのです。
 あるいは、青空市でガラクタに混じって香港のフロートペンを見つけたことがありました。
 香港には行ったことがあるけれど、そのときはフロートペンを買わなかったので、なんだか何年ぶりかで再会したような嬉しい気分になってしまいました。
 アメリカでは、アンティークショップなどでよく売っているそうですが、日本ではガラクタ市ですらめったに見かけないようです。

 フロートペンを手に入れるもう一つの手段は、外国のコレクターたちとトレードをするという方法で、これを始めると途端に数が増えていきます。
 トレードは、重なってしまったペンを処分するのにとても便利な手段なのですが、その交換として何を貰うかということをキチンと考えておかないと、フロートペンの蟻地獄にはまり込んでしまいます。
(そうなると、コレクションも数だけの問題になってしまって、それはちょっと違う世界の話しなのです)
 私の場合は「広告宣伝品」と「美術館もの」にターゲットを絞ってトレードをしています。
 まず、「広告宣伝品」の方ですが、各企業の宣伝マンが趣向を凝らして作った面白いフロートペンがたくさんあります。
 例えばこの「ハインツ」のフロートペンは、チューブからニョロニョロっとケチャップが出てくるという奇抜なアイデアのフロートペンです。
 これを手に入れたときは何度もひっくり返しては感心をしたものです。
 同じアイデアで、チューブから歯磨きが出てくるものや、ジョッキにビールが注がれるものなどがあります。
 ビールといえば、ビール瓶から足が生えて、スタコラ走っていくという、まるで「ブンブク茶釜」のような、アメリカの「レイニア・ビール」の販促品なども、思わず笑ってしまいますね。
 どうしてこんな楽しいアイデアが出るのだろうと、感心すらしてしまいます。
 お酒の会社ってけっこうフロートペンを作るのが好きなようですね。
 日本でも「サッポロビール園」のフロートペンがあるし、私はマレーシアの「タイガービール」のフロートペンという珍品も持っていますよ。
 あるいはまた、「CARDIZEM」という高血圧治療薬のフロートペンは、落下傘がデザインされています。
 この薬を投与すると落下傘のように血圧が下がるよ、という意味なのでしょうね。ご丁寧に血圧計の目盛りまでついています。
 こうしたフロートペンは、企業が販売促進用に作るわけですから、目的がキチンとしていて図柄が分かりやすいものが多いようです。
 日本の企業はあまり作っていませんが、アメリカでは食品業界や薬品業界を中心として、ずいぶんたくさん出ています。
 普通の手段では手に入らないだけに、一層興味深いものがあります。

 一方、「美術館もの」は、私が当初思っていたのとはやや違う展開になりました。
 私は「Museum」=「美術館」だとばかり思いこんでいて、世界の名画をフロートペンで集めようと思っていたのですが、よく考えたら「博物館」も当然その一員に入るのですね。
 と言うよりも、日本と違って海外ではむしろ「博物館」の方が数が多いようなのです。(日本でも本当はそうなのかな?)
 クラシックカーやSLや飛行機などの博物館を筆頭にして、例えばこのオランダの「海難救助博物館」のように、おいおい一体何を展示しているのだ、と突っ込みを入れたくなるような博物館に至るまで、本当に多種多様な博物館があって驚かされます。
 でも、それはそれで魅力があって、例えばこのページの冒頭に載せた「古い漁村の博物館」のように、日本では全く知られていないけれど素敵な博物館に出会うと「ぜひ訪れてみたいな」と思ってしまいます。
 変わり種の代表は、テキサス州にあるという「葬儀の歴史国立博物館」です。
 いったい何を展示しているのでしょうか? 見たいけど怖い、怖いけど見たい、と思いませんか? まるで「アダムス・ファミリー」の世界ですね。
 もちろん、私が最初に思っていた、油絵や彫刻などを展示している「美術館」のフロートペンもあります。
 ロンドンにある「ナショナル・ギャラリー」のフロートペンは、ルノアールの「セーヌ川の舟遊び」の油絵がフロートペンになっていて、絵の中の舟が左右に動くのです。
 まさにフロートペンだけに出来る芸当ですね。
 私は日本で開催される美術展によく行くのですが、絵葉書や複製画ばかり売らないで、ぜひともフロートペンも売って欲しいなと思います。

 ところで、「Museum」とは別に「Hall of Fame」という施設があります。
 「記念館」とか「栄誉の殿堂」とかいう意味で、これも一種の「美術館・博物館もの」と言えるでしょう。
 これはその一例で、オクラホマ州にある「国立ソフトボール記念館」のフロートペンです。
 マドンナが出演していた「プリティ・リーグ」という映画のラストシーンにも、これと同じような女子野球の記念館が出ていましたね。

 さて、ジャンル分けの話しになったので、この話をもう少し続けましょう。
 まず、一番多くて集めやすいのが「ディズニーもの」というジャンルです。
 これは更に、「ディズニーランドもの」と「ディズニー映画もの」という二つのジャンルに分かれます。
 ディズニーランドは世界に4ヶ所あって(アナハイム、フロリダ、東京、パリ)それぞれ同じような、でも少しずつ違うペンを出しています。
 例えばこのペンはアナハイムのものですが、東京には無いマッターホルン・ボブスレーが描かれているでしょう? そういったところがこだわりですね。
 でも最近は東京ディズニーランドのペンが姿を消してしまったのが残念でなりません。
 早い復活を望みたいものです。
 ディズニー映画のペンもたくさん出ています。
 以前は一つの映画に一本というのが相場だったのですが、最近は一つの映画に対してフロートペンが何本も作られる傾向にあります。
 この「ライオンキング」もそうですね。全部で6本出ています。
 けれども、それらを全部集めるのはけっこう大変で、私がアナハイムのディズニーランドで入手できたライオンキングのペンは4本だけでした。
 残る2本のうち、5本目を入手できたのはそれから3年半後、最後の一本を入手するのはそれからさらに2年かかりました。
 この「ディズニー映画もの」も、最近では東京ディズニーランドからもディズニーショップからも姿を消しています。
 一体どうしてしまったのでしょうか?

 アニメの分野では、このほかにも、ワーナー・ブラザーズの「Looney Tunes」や「Marvin The Martian」などがありますが、なんと言っても秀逸なのが「Betty Boop」のシリーズです。
 ベティちゃんのシリーズはどれもこれも、素敵で愛らしいものが多いのですが、それはベティちゃんの人柄ってやつでしょうか。
 頭は弱そうだけど、頼まれたらイヤとは言えないベティちゃんが、ファンの求めに応じていろんなシチュエーションで、いろんなファッションを見せてくれるのです。
 けっこうな数が出ているので、一本ずつ集めていったら楽しそうですよ。

 「ホテル」というジャンルも、最近時々お目にかかるようになりました。
 多いのはラスベガスのホテルのものですが、私はシンガポールの「ラッフルズ・ホテル」というフロートペンも持っています。
 ホテルの前をトライショーという人力タクシーが通っていて、なかなかエスニックです。
 この分野はなかなかの有望株です。

 「航空会社」というジャンルも面白そうですね。
 飛行機が動くという趣向のペンは多いのですが、よーく観察すると、尾翼にその国の航空会社のマークが描かれていることが多いのです。
 なかには、日本ではお目にかからなくなった昔懐かしいパンナム機のマークを発見することもありますよ。
 アメリカではまだ現役なのですね。

 「イベント」というジャンルはアメリカ人と日本人とでは少しとらえ方が違うようです。
 私は、オリンピックや万博などもイベントだと思うのですが、アメリカ人は「ボストン茶会事件」や「タイタニック号の沈没」などをイメージするようですね。
 まだ記憶に新しい「二千年紀(ミレニアム)」のフロートペンはもちろんイベントものです。

 最近独立させた「物体入り」というジャンルは面白いですよ。
 これは何だと思います? 実は「琥珀」のかけらがたくさん入っているのです。
 このほかにも、「石」や「貝」や「人形」や「隕石」など、さまざまな「物体」がフロートペンの中に入っています。
 フロートペンの王道ではありませんが、魅力ある脇道だと思います。

 その他にも、「テーマパーク」のシリーズだとか、「世界の旗」のシリーズだとかもありますが、でも何と言っても、フロートペンの基本は「観光地」シリーズでしょうね。
 数から言ってもこれが一番多いし、やっぱり一番楽しいのです。
 私が一番気に入っているのは、フランスにある「鷹の巣村」という場所のフロートペンですが、高台の村を遠望して、その前を一羽のカモメが悠然と飛行するのです。
 本当にすてきなフロートペンです。
 このペンは両親の海外旅行のお土産で、私自身は行ったことがないのですが、このペンのおかげですっかりこの村のファンになってしまいました。
 それから、アメリカのアイダホ州のこのペンなどは、トラックの荷台に大きな大きなジャガイモが積まれていて、ワハハと腹を抱えて笑ってしまいます。
 こういう感覚ってステキですね。 「おまえの州はジャガイモしかないだろう」と馬鹿にされているのを逆手にとっているようで痛快です。
 そういえば日本でも大きなブドウの実を荷馬車で運んでいくという、ワイン(?)のテレビCMがありましたね。
 日本の観光地ものでは京都の金閣寺で売っているフロートペンが最高です。
 金閣寺、竜安寺、舞妓さん、大文字の送り火・・・観光客の誰しもが頭に描く京都慕情がそこにあります。
 こういうデザインを恥ずかしげも無く堂々と描けるのがフロートペンのチープで愛らしいところなのです。

 「観光地」のジャンルから最近独立したのが、「地図もの」のシリーズです。
 このペンはオーストラリア大陸の地図の前をカンガルーがフロートするというデザインですが、このほかにも、ニュージーランドやハワイ諸島などが「地図もの」としてあります。
 日本地図の上を飛行機が飛んでいくというフロートペンも見たことがありますよ。
 ただし、全ての国が「地図もの」に向いているとは限らないのが弱点ですね。

 さて、視点を変えて、ここでフロートペンの歴史と形態について、考察(笑)しましょう。
 フロートペンの元祖は1946年に創立したデンマークのEskesen社だと思われていますが、実はEskesen社がフロートペンを手がける前に(あるいは同じ頃に)、同じアイデアで作られたペンが幾種類もありました。
 つまりEskesen社は「本家」ではあっても「元祖」ではないのです。(ここらへんの表現は微妙ですね)
 フロートペンの始まりがいつからなのかは定かでありませんが、私は1940年の銘が入ったRitepoint社のフロートペンをインターネットで見たことがあります。それは同年に行われたモーター・オイルのセールス・キャンペーンの景品として作成されたものでした。


 このペンは限りなくそれに近いもので、1940年のそのペンと同じように、水槽の中にモーター・オイルとボール・ベアリングが入っています。
 当時のフロートペンはそのほとんどが、このような「水槽の中に物体が入っている」というものでした。
 そういう意味では、現在のEskesen社の、ジオラマのようなフロートペンとはジャンルが異なるようにも思いますが、Eskesen社自身も、最初の頃は同じように「物体入り」のペンを製造していましたから、フロートペンの歴史を語るときに「物体入り」のフロートペンの時代は避けては通れないでしょう。

 それでは、フロートペンの黎明期を担ったアメリカのメーカーのペンをいくつかご紹介しましょう。

 このシャープペンシルには、まるでギャングのアル・カポネが乗っていたような、クラシックな自動車が入っています。
 これは、2000年12月に惜しまれつつもその長い歴史の幕を閉じた米国の自動車メーカー「Oldsmobile」社の、「Futuramic」というモデルです。この車種が販売されたのは1940年代の終わり頃から50年代の初めにかけてなので、このペンもきっとその頃のものに違いありません。
 このペンを製造したのは、アメリカの「Secretary Pen Co.」という会社です。
 こうした古き良き時代を彷彿とさせるペンは本当に素敵ですね。
 フロートペンが今のスタイルに落ち着く前は、このように、液体の中を自動車や船などのミニチュアがフロートするものが多かったのです。


 2本目のこのシャープペンシルは、サンタクロースでおなじみの「赤鼻のトナカイ」が入っています。
 しかもグリッターも入っていて、ひっくり返すとキラキラと輝いてとてもきれいなペンです。
 このペンはアメリカの「Progressive Products Inc.」というメーカーが製造したものです。
 「Progressive Products Inc.」は上記した「Secretary Pen Co.」と同じ町に工場があります。
 もしかしたら兄弟会社かも知れませんね。


 3本目のこのシャープペンシルは、上部の3cmほどの水槽に、ミスター・ピーナッツの人形が入っています。
 おそらく1940年代の後半から1950年代にかけてのものと思われます。
 このペンを製造したアメリカの「Ritepoint」社も、古くからフロートペンを手がけています。
 1947年に発行された「トレード・マガジン」という雑誌に、同社のフロートペンをコレクター向けに販売する広告が掲載されていますから、既にその時期にそれなりのマーケットを築いていたということでしょう。

 これらの1940年代から1950年代に製造されたペンは、残念ながらしっかりと根付かないまま、いつのまにか市場から消えていってしまいました。
 時おりそうしたペンをアメリカのオークションなどで見かけることがありますが、けっこう製造コストが高そうで、現在のEskesen社のペンのようなお手軽な雰囲気はありません。
 一本は買ってみたいけれど、集めるとなると財布から文句が出そうです。
 案外そんなところが自然淘汰されていった原因なのかもしれません。

 そんな折、デンマークでパン屋さんをしていた「Peder Eskesen」さんが、1946年に何を思ったのかペンを製造する会社を興し、5年後の1951年には、ついにフロートペンの製造に着手しました。



 この3本のペンはその第1号ペンではありませんが、限りなくそれに近いものです。
 一番上のペンは1957年に製造されたもので、第1号ペンと同じく、Essoのモーターオイル缶がフロートします。
 二番目のペンは一番目と同じように見えますがフローターのオイル缶に書かれている字体が違うのと、マークがフローターの両面にあるのです。  2005年のEskesen社のカタログを見ると、一番最初に作ったフロートペンが掲載されていますが、そのペンがこの2番目のペンとそっくりなのです。 もしかしたらこれは最も古いフロートペンの一本なのかも知れません。
 三番目のペンはさらに後年のもので、1960年代の前半のものと思われます。 Essoのモーターオイル缶がフロートする替わりに、缶の中から自動車が出てきます。
 さて、彼が作ったフロートペンは「液洩れがしない」と評判でした。
 逆に言えば、当時のフロートペンは「面白いけれど液洩れがして洋服を汚すからねえ」という代物だったのでしょう。
 今でもオークションで見かける古いフロートペンは液体がすっかり抜けてしまったものや、大きな気泡が入っているものが多いのです。
 また、当時はボールペンよりもシャープペンシルが主流だったようで、Eskesen社も創業当初は主にシャープペンシルを作っていました。
 というのも、実はボールペンが普及し始めたのは1943年以降のことだからです。
 そもそも、ボールペンが米国人のジョン・ラウド氏によって発明されたのは1884年のことだったのですが、ラウド氏の発明はアイデアばかりで工夫がなかったので、インクが洩れるなどの不具合が多くて実用化に至りませんでした。
 それから約半世紀が経過して、1943年にハンガリー人のラディスラオ・ビロ氏が細い管に粘度の高いインクを入れる工夫を行ってようやく実用化にこぎつけました。
 彼はアルゼンチンでパテントを取り、当地で第1号のボールペンを製造しました。
 その2年後、1945年にアメリカで初めて発売された時は、1本8.5ドル(現在の貨幣価値で言うと1万円くらい?)という高値にもかかわらず、発売初日に1万本も売れたそうです。
 当時のキャッチフレーズは、「水の中でも字が書ける」だったそうです。
 ということで、ボールペンが普及して、フロートペンがシャープペンシルからボールペンに移行したのは、1950年代の後半、もしかしたら1960年代に入ってからではないかと思われるのです。
 それでは当時のシャープペンシル型のフロートペンを実際にお見せしましょう。


 この2種類のシャープ・ペンシルは私が持っているEskesen社のフロートペンの中で最も古いもので、おそらく1950年代から1960年代前半までのものと思われます。
 上の方の、窓が短い方は、ショック・アブソーバが動く様子をシミュレートするという、なかなかのアイデアものです。
 下の、窓が長い方は、アナハイムのディズニーランドを走るモノレールが描かれています。
 どちらのペンもペンの先の金属の部分を回すと中からシャープペンシルの芯がせり出してきます。 だいぶ昔のシャープペンシルですから、芯の太さも今のように0.5mmなんて細さではなく、1mm以上ありますよ。

 さて、「液洩れがしない」という評判を得たEskesen社のフロートペンは、またたくまに世界中に広がっていきました。
 とりわけ、部品のほとんどをプラスチックに替え、低コストを実現した現在の形のフロートペンは、政治家が選挙のキャンペーンで配ったり、一般企業が広告宣伝用に無料配布するにはまさに最適な価格だったのでしょう。
 為政者が作ったものとしては、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領やシカゴのDaley市長、あるいはイラン国王のフロートペンなどが存在するそうです。
 ちなみに、このペンはごく最近のもので、ブッシュ候補とゴア候補による泥沼選挙が記憶に新しい、2000年の米国大統領選挙の際に、フィラデルフィアで行われた共和党大会のキャンペーンで製作されたものです。
 象は共和党のシンボルで、ホットドッグ屋(といっても、マクドナルドのような規模の店なのでしょうね)がこのペンのスポンサーになっています。
 また、広告宣伝用としては先にも書いた「ESSO」を手始めとして、「コカ・コーラ」や「Heinz」など、著名な企業がEskesen社のフロートペンを採用したことが今日の成功に繋がっているのだと思います。
 もちろん、ディズニーランド効果も忘れてはなりません。

 この1960年代のフロートペンの中に入っているのは、とても古いスタイルのミッキーマウス人形です。この当時の人形は一体一体が手彩色で、ところどころ色がはみ出たりしているのがご愛敬です。
 ディズニーランドに行けば可愛いキャラクターのフロートペンが手に入るし、新しいディズニーアニメが公開されるとそのフロートペンが一緒に発売される、というわけでアメリカを中心としてEskesen社のフロートペン市場が広がっていきました。

 Eskesen社の主流が、シャープペンシルからボールペンに変わってからも、デザインは少しずつ変化していきました。




 ここに載せた4本の古いフロートペンを見てください。
 一番上のフロートペンは先端の部分が金属で出来ています。
 二本目は、一本目と同じデザインですが、先端の金属の部品が黒色のプラスチックに替わっています。
 三本目は、クリップの部分や先端の部分のデザインが明らかに最近のものと異なります。
 四本目のペンもクリップの形態が少し異なっていて、いかにも過渡期という感じがします。
 Eskesen社のフロートペンが現在のデザインに落ち着くまで、幾つかのマイナーチェンジがあったのでしょう。
 一体いつ頃どのように変わっていったのかは、今後の研究(笑)が待たれるところです。
 いずれにせよ、今では週に50から100種類の新しいフロートペンがEskesen社の工場から世界中に送り出されているというのですから驚きですね。

 2003年12月、世界中のフロートペンコレクターたちを激震が襲いました。
 なんと、Eskesen社が倒産したというのです。
 ちょうどその年のクリスマスのペンの到着を世界中のフロートペンファンが心待ちにしていた矢先の出来事で、倒産の混乱の中、毎年の楽しみだったクリスマスのペンはとうとう私たちの手元には届きませんでした。
 「このままフロートペンは世の中から姿を消すのか」とやきもきして状況を見守っていましたが、その後Eskesen社は新しい経営者の手によって再建され、我々コレクターたちもほっと胸をなでおろしました。
 Eskesen社は社名を含めて表面上は何の変化もありませんでした。
 従業員もそのまま雇用されましたが、創業者の一家はEskesen社から去ることになりました。
 例のクリスマスのペンはそれから半年以上も遅れた真夏になって、ようやく私たちの手許に届きました。
 それもヨーロッパとアメリカのコレクター達の無償の協力によって届けられたのでした。
 さて、表面上は変化がなかったとはいえ、倒産をした会社ですからコストの削減と生産の効率化は大きな課題でした。
 そこでEskesen社の新しい経営者は製造工程の見直しと製造部品の変更という大きな変革を行いました。
 フローターやバックパネルなどの主要な部品を、フォトラミック(photoramic)と呼ばれる写真技術から、デジタル(digital)と呼ばれる印刷技術に製造方法を変更したのです。
 これによって製造コストの軽減と作業の効率化を図ることが出来たのでしょうが、残念ながら品質の低下を招いてしまいました。
 デジタル技術で作ったペンは画の肌理が粗く、Eskesenらしさが失われていました。
 「まるで中国ペンのようだ」というのが当時のコレクター達の感想です。
 2005年から2006年にかけて、フォトラミックとデジタルが共存したときがありましたが、やがてフォトラミック用の機械は撤去され、デジタルだけで製造されるようになりました。

 この2本のペンは2006年6月に同じ店で購入しました。
 上のペンがフォトラミックで下のペンがデジタルです。
 つまり同じペンをフォトラミックとデジタルの両方で作って売っていたのです。
 もしかしたらどちらが評判がよいのか試していたのかもしれません。
 こういったイラストの場合はデジタルの方がきれいに出来ることがありますが、細かい画や写真などの場合は圧倒的にフォトラミックの方が出来が良いです。
 でももうフォトラミックに戻ることはありません。 残念ながら。

 それではEskesen社のフロートペンのバリエーションを見てみましょう。

 まず、一番よく見かけるスタイルのフロートペンは、製品番号#534のペンで、通称「Classic」と呼ばれています。
 ペンの先端を回すとボールペンの芯が出てくる仕組みで、分解してみるといかにもお手軽なペンだということがよく分かります。
 ところが知らない間に芯が出てワイシャツの胸ポケットを汚したり、インクが洩れたりするなど、筆記用具としてはあまり品質が良くないのが欠点で、いかにも観光地のお土産だなあという感じが致します。
 海外の観光地などで買うと、大体一本3ドル前後で買えますが、この価格設定が何とも言えず良いですね。 心安い友達にお土産としてあげるにも、自分でコレクションをするにも、実にお手ごろ価格です。
 これが5ドルということになれば、たくさんは買わないだろうし、10ドルなら他のお土産に目が移ってしまいます。 3ドルって、そんな価格ですよね。
 こんなに安いのだから、ちょっとくらい品質が悪くてもいいじゃないかと思うのですが、世の中にはこの品質の悪さに本気で腹を立てる人がけっこういるらしく、あまりのクレームの多さにネを上げた東京ディズニーランドは、数年前からフロートペンの販売をやめてしまいました。
 私たちフロートペン・コレクターにとってはショッキングな出来事でした。


 ところで、「Classic」には通常サイズの他に窓の長さが短いものがあります。
 製品番号#533のフロートペンです。
 でも、製造コストははっきり言って通常サイズのものと変わらないのですから、一体何を意図して短いペンにするのか、不可解なものがあります。
 短いから可愛いかというと、そうでもないし、むしろ短い分だけ使い心地が悪いような気がします。


 2005年に、製品番号#532という、長さが更に短いフロートペンがリリースされました。
 Eskesen社による説明では、このペンは子供向けのフロートペンなのだそうです。
 何しろ窓がうんと小さいものだから、中に入っているフローターもちょっとだけしか動きません。
 これではフロートペンの魅力が半減すると思うのですがいかがでしょうか。


 長らく、フロートペンと言えば「Classic」スタイルのペンを意味していましたが、数年前にEskesen社は新しいスタイルのフロートペンを発表しました。
 それが製品番号#964の、通称「Twist & Click」と呼ばれているフロートペンです。
 さすがにニュー・スタイルだけあって全体的なデザインもすっきりしているし、窓も一回り大きく、さらに筆記用具としても「Classic」と一線を画す仕上がりです。
 2001年にはスケルトン(半透明)の軸もバリエーションに加わって、さらに魅力が増えました。
 しかし製造コストの高さが小売価格にも影響するようで、まだ「Classic」型を凌駕できていないのが現状です。
 特に観光地のフロートペンは3ドル前後という相場が出来てしまっているので、「これは品質が良いから4ドルだ」というような売り手の論理はなかなか通らないでしょうね。
 ソウルのロッテワールドに遊びに行ったら、フロートペン以外にもたくさんの種類のボールペンが並んでいました。
 値段を見ると他のボールペンがたいてい100円から300円ぐらいなのに、「Twist & Click」型のフロートペンは400円もするのです。
 しかも、並んでいる姿(写真上段の右側)は、他の派手派手なボールペンに較べるとずっと地味だし、これでは売れ残ってしまいそうだなと、人ごとながら心配になりました。
 しかし、それでも「Classic」よりも明らかに品質が高いため、今後は徐々に主流になっていくのではないでしょうか?
 特に、企業の宣伝用のペンの場合は、僅かな単価の問題よりも品質の方に重きが置かれるため、「Twist & Click」型のフロートペンが好まれるようです。


 「Twist & Click」のペンに間違いないのに#965という製品番号がつけられているペンがあります。
 何が違うのかというと、ただ一箇所、軸が銀色をしているのです。
 多分クロームメッキだと思うのですが、軸のカラーの一種に過ぎないと思うのにわざわざ製品番号を変えています。
 どうしてでしょうね。

 2000年末にEskesen社は新しいスタイルのフロートペンを発表しました。
 それが製品番号#981と#982のペンです。

 まず#981のペン。このペンは、構造的には「Twist & Click」と同じですが、クリップの部分が変更になっています。
 #964のクリップが本体に突き刺す形式の金属製だったのに対し、#981のクリップは、頭部と一体化したプラスチック製になっています。
 そして、斜めに切り落とされた頭部には、楕円形のくぼみがあって、ここにエンブレムなどをはめ込むことが出来るようになっています。  エンブレムは必ずしも必要というわけではなく、実際にはエンブレムが無い方がスッキリしているように思うのですが、いかがでしょうか。
 このペンは、頭が斜めになっているので、「スランテッド・トップ」と名づけられています。


 次に、#982のペンの方は、同じく頭部とクリップがプラスチックになっているのですが、頭部が丸いのが特徴です。  頭が丸いので「ラウンド・トップ」と名づけられています。
 こちらの方は頭部とクリップが一体化していないので、別の色でコーディネートすることも可能です。
 どちらのタイプもデザイン的には以前よりも洗練された雰囲気がありますが、クリップが材質的に弱そうで、折れたりしないかと心配です。
 はたしてどれだけ普及するのか、楽しみです。

 「ラウンド・トップ」のバリエーションとして「ハート・トップ」と言うペンがあります。

 ご覧のようにフロートペンのヘッドにハートがついています。
 Eskesen社はこれをバレンタイン・デイ向けの商品と位置付けているようですが、それでは季節もの過ぎるのか、ほとんど世の中に出回っていません。
 私が持っているこのペンは女房殿がコペンハーゲンで購入したものです。
 お土産やさんの店頭にさりげなく置いてあったそうです。
 「ハート・トップ」の製品番号は#983です。
 「ハート・トップ」の製品番号は、実は以前は#984だったのですが、いつのまにか1番繰り上がってしまいました。
 恐らく次に紹介する「ミッキー・ハット・トップ」がディズニー社専用のデザインのため特別な製品番号から付けられて、「ハート・トップ」が繰り上がったのだと想像しています。

 「ハート・トップ」のバリエーションとして、2003年に「ミッキー・ハット・トップ」のペンがリリースされました。
 どんなものかは画像を見れば一目瞭然。

 今のところ、フロリダのディズニーワールドのこの一本にしかお目にかかっていませんが、ディズニーのペンは全てこのスタイルでも良いですね。
 製品番号は不明なのですが、Eskesen社のカタログで番号が飛んでいる#983がそうなのではないかと想像していました。
 しかしその後、製品番号#983は「ハート・トップ」に割り当てられてしまったため、「ミッキー・ハット・トップ」は現在では#989という製品番号で呼ばれているようです。

 2004年9月に新しいデザインのフロートペンがリリースされました。
 製品番号#985のこのペンは通称「C-Top」と言うのだそうです。

 クリップがC型にわん曲しているのでこの名前が付けられました。
 ちょっとゴツい感じがするのですが、いかがでしょうか?


 フロートペンのスタイルとしてはこのほかに、製品番号#527の「Clicker」という種類があります。
 これはペンの頭の部分がノック式になっているものです。
 このペンの特徴は窓を360度使えるということで、デザインによっては立体的な表現も可能なのですが、実際に全方向を意識したデザインのフロートペンには残念ながらお目にかかったことはありません。
 いわゆる「ヌード・ペン」(英語では「Tip & Strip」と言います)はなぜかこの「Clicker」スタイルが多く、その延長線上にある「Conseal/Reveal」(見えたり隠れたり)のペンも同じくこの「Clicker」タイプが多いようです。
 その代表的な例は、ケチャップや歯磨き粉がチューブの中からニョロニョロと出てきたり、ビール瓶からジョッキの中にビールが注がれていくというものですが、これは実際に手にして動かしてみると実に感動ものですよ!
 ところが2006年にショッキングなニュースが入りました。
 Eskesen社はこの「Clicker」ペンの製造を終了するというのです。
 もともと壊れやすい構造のため苦情が多かったそうなのですが、近頃のようにいろいろなスタイルのペンが出る前までは「Classic」と共にフロートペンを背負ってきただけに惜しまれる引退です。
 今後はヌードペンは他のスタイルのペンに替わってしまうのですね。 なんだかとても残念でなりません。

 Eskesen社のフロートペンは基本的に上記した「Classic」「Twist & Click」「Clicker」の3種類です。
 しかし最近では、ちょっと風変わりな、次のようなペンが出ています。

 一つはキーホルダーと一体化したペンです。 製品番号は#503が付けられています。
 ペンの先にキャップがあって、そのキャップにキーホルダーがついているのです。
 キーホルダーとしては大型で使いにくそうだし、字を書くときにキーホルダーを取り出したりするかなというところが疑問です。
 でも、これだけの長さがあると、ジーンズの尻ポケットに突っ込んで、キーをガチャガチャさせて歩くというスタイルがあるかも知れませんね。 (ふむ、ちょっと強引かな?)


 製品番号#504は#503と同じものですが、窓の長さが長いものです。
 #503でも長すぎると思うのに、これはさらに長い。
 こんな長いキーホルダーなんて、ホテルの鍵以外に見たことがないですよね。
 お土産でこんなのを貰っちゃうと、使い途に困ってしまいます。


 製品番号#944の最新アイテムがこのバット型フロートペンです。
 すごいでしょう! バットのグリップのところからペン先が出てくるのですよ。
 このシリーズでプロ野球12球団のペンが出来たら素敵ですね。


 それから、フロートペンと定規を一体化した「コンボ」と呼ばれている製品もあります。こちらは製品番号#404です。
 フロートペンを定規の真中にはめ込むようになっているのですが、うーん、そんな必要があるかなあ?
 はめ込むときにクリップが邪魔になるようで、クリップの無いフロートペンが使われています。


 その変形で、定規の真中に二つの窓が埋め込まれた製品もあります。製品番号#4041です。でも、こちらのほうはペンとしての機能はありません。
 ちなみに、中央に書かれた「Gornergrat」という文字は手書きです。
 いかにも家内工業という感じですね。


 一方、ボールペンではなく、シャープペンシルになっている製品もあります。製品番号#9641です。
 ディズニーランドの古いシャープペンシルを上の方で紹介しましたが、2000年になって、見た目には「Twist & Click」とそっくりなシャープペンシルがリリースされました。
 このシャープペンシルの最大のネックは値段が高いことで、私はそれゆえに流通が難しいのではないかと危惧しています。


 これはなんと万年筆です。
 Eskesen社の新作で、20世紀から21世紀に切り替わる頃にリリースされました。
 製品番号は#894です。
 カートリッジ式のインクを用いるのですが、そのスペースが重荷になって、全体が異様に長くなっています。
 万年筆にはこの他に、デザインが少し異なる#813と#814という製品もあります。

 Eskesen社のフロートペンのバリエーションはこんなものでしょうか。
 でも、ペン以外のフロートものに目を転ずるとまだまだいろんな種類があります。

 その代表的なものが製品番号#244の「Tooth Brush」つまり「歯ブラシ」です。
 歯ブラシの握りの部分が窓になっているのですが、うーん、ふふふ、何本か持っていますが、まだ一度も歯ブラシとして使ったことはありません。
 先日、その窓の部分が開閉できて、その中に爪楊枝が入っているという製品を手に入れました。

 歯ブラシと爪楊枝は確かに相性が良さそうですが、これはフロート製品とは言えないですね。

 ペンとしての機能のないただのキーホルダーもいくつかの種類が出ています。

 最も一般的なのが製品番号#634のキーホルダーです。
 Classicのフロートペンの部品を流用しているのがよく分かります。

 #604のキーホルダーもよく見かけますが、「コンボ」の部品を流用しているようですね。

 #604の短窓の製品は#603という製品番号です。

 #644は何が違うのかというと、金属をつけている部分が違うでしょう?。


 製品番号#354は「Letter Opener」(レター・オープナー)、つまりペーパーナイフという製品です。
 でもはっきり言って実用的ではありません。(と断言してしまおう) 少なくとも「使おう」という気持ちになれません。
 プラスチック製の透明なブレードが何とも安っぽいし、封筒の隙間から差し込もうという形ではないのです。
 ところが、現在のデザインになる前に、もっとおしゃれなレター・オープナーがありました。

 これは1964年のニューヨーク万博のレター・オープナーですが、ブレードの形がきれいでしょう? これだったら使いたくなりますね。

 実用的でないと言えば、製品番号#154の「Screwdriver」(ねじ回し)も、うーん、困ったなあ、ですね。
 だって、力を入れる部分がツルツルしているのですよ。

 ちなみにこれは沈没船から引き揚げた財宝などを展示している博物館のものです。
 アメリカでデッドストック品になっていたものを購入しました。

 ペーパーナイフやネジ回しなどに比べたら、製品番号#754の「Bottle Opener」(栓抜き)なんかのほうがまだ使おうって気になりますね。

 ただ、ちょうどテコの原理で力が入る部分が金属とプラスチックとで継がれているためにその部分が折れやすく、この商品は短命に終わったそうです。

 それから1998年の秋に登場した製品番号#833の「Scripto Lighter(使い捨てライター)」、これが傑作です。
 市販の使い捨てライター(なんと日本製!)を収納する一回り大きなケースに窓がはめ込まれているのです。
 当然ながらサイズは大きくなって、ライターとしてはちょっと大きすぎるように思います。(画像では窓の部分と「New York」という文字の部分を同時に見せるために斜めから撮影しているのでスリムに見えますが、実際にはもうすこし大きいのです)
 でも愛煙家へのお土産に良いかも知れませんね。
 私はずいぶん昔に煙草をやめてしまったけれど、ぷかぷか吸っていた頃にこんなライターをお土産に貰ったらきっと喜んだろうなあ。
 愛煙家にとって、ライターはいくつ有っても邪魔にはなりませんからね。
 しかも、ガスが無くなったら、スペアの使い捨てライターと交換できるのです。
 アメリカではけっこう各地で販売されているようですが、日本では滅多に見かけないですね。
 一度だけ、東京タワーの展望台で「Tip & Strip」のライターを見たことがある程度です。


 最近の製品では「Whistle Keyring(笛が゙ついたキーホルダー)」なんてのもあります。(製品番号#774) 笛とキーホルダーが一体化しているのです。
 私は一回吹いたっきりで元の袋にしまってしまいました。
 だって、普通に生活していて笛を吹くシチュエーションなんて滅多にありませんよね。

 ちなみに、笛だけの製品もあります。これは製品番号#744です。

 一方、フロートペンの製品種類ではなく、その形態によっても名前がつけられています。
 ケチャップがニョロニョロと出てきたり、東京タワーの昼間の絵と夜の絵が交互に出てくるスタイルを「Conceal / Reveal」(見えたり隠れたり)といいます。
 これはけっこう優れものが多くて、例えばフィットネスクラブの左側の入り口から太ったカップルが入ると、右の出口からシェイプアップされた二人が出てくる、などという分かりやすく感動的なフロートペンがあります。
 「Tip & Strip」(ヌードペン)も「Conceal / Reveal」の一種です。

 フロートペンの窓の中に小さな金属片がたくさん入っているものがあります。
 これは「Glitter Pen」(キラキラペン)といって、紙ふぶきのような感じになるから、お祝い用のペンに使用すると素敵ですね。
 あるいは、スノードームのように、雪に見立ててもきれいです。
 でもよく見かけるのは町の名前が書かれているだけの、案外シンプルなペンが多いようです。


 これは、オブジェクト(Object)すなわち「物体入り」という種類のフロートペンです。
 フローターの代わりに何か物体が入っているもので、デンマーク土産に戴いたフロートペンには「琥珀」が入っていましたし、「隕石」が入っているペンも見たことがあります。
 ブリュッセルの小便小僧がごろっと入っているのもこのジャンルになりますね。

 さて、またもや話が変わりますが、フロートペンのそれぞれの部位(パーツ)には名称がつけられています。
 「Classic」タイプのフロートペンを例にとって説明しましょう。
 まず、一番最初に目が行くところ、そう、液体が入っているところ、ここはフロート・ポーション(Float Portion)とかチェンバー(Chamber)とか呼ばれています。
 でもどちらの呼び方も日本人にはちょっと分かりにくいので、私は「窓(Window)」と呼んでいます。
 窓の中には植物性のオイルが一杯詰まっています。
 正面から見るとその中に3つの部品が入っているのが分かります。
 手前にあるのを前景(Foreground)、奥にあるのを背景(Background)と呼びます。
 この二つの部品で窓の中をジオラマのように立体的に見せているのです。
 そしてその間をフローター(Floater)が行ったり来たりするのです。
 ただし、それは一般的なケースの場合で、前景が無いケースは良くありますし、何にもないクリアな窓の中でフローターだけが行き来するケースもあります。
 窓の裏側(つまり背景の裏側)はバックパネル(Back Panel)と呼ばれています。
 ここには観光地のペンならその地名が書かれていますし、広告宣伝用のペンなら企業名や製品名などが書かれています。
 そのためにキャプション・パネル(Caption Panel)とも呼ばれています。
 窓の上部にはチップ(Tip)に挟まれて金属製のクリップ(Clip)があります。
 一方、窓の下部には金属のバンドがあり、その下にバレル(Barrel)と呼ばれる筆記具の部位があります。
 窓がクリアな構造の場合には、このバレル部に文字が書かれていることがよくあります。
 いかがですか、勉強になりましたか? エッ?そんな勉強などしたくなかった、って? それは失礼をしました。

 最後に、Eskesen社以外のフロートペンをいくつかご紹介しましょう。
 基本的に、Eskesen社以外の製品は集めるつもりはないのですが、資料的な意味あいで何本かずつは保有しています。


 これは「イタリアペン」の全体イメージです。 クリップに「ITALY」という文字と「VA」というデザインされたマークが入っています。
 長さはEskesen社のペンと変わらないのですが、窓が大きいのでつい全体が大きいものと勘違いしてしまいます。
 3段式のロケットみたいなペンの先端部に特徴がありますね。
 このペンはスペインのバルセロナのものですが、これなどは独自の味が出せて、デザイン的にはわりと成功している方だと思います。


 これも同じ会社のフロートペンです。
 ただペンの形が違うだけのように見えますが、驚くなかれ、このペンは全長25cmもあるのです。 あまりにも巨大すぎて画面からはみ出してしまうので、縮小して表示しました。

   「中国ペン」はスタイル全体がEskesen社のパクリなのがいけません。
 フロートペン市場は別にEskesen社の独占である必要はなく、複数のメーカーが切磋琢磨してデザインと品質とコストを競い合えば良いと思うのですが、マネッコはいけません。

 このモナコのペンなども、見た目にはほとんどEskesen社のそっくりさんなのです。
 それでいて、Eskesen社が作ったモナコのペンと較べると、デザインも品質もワンランク落ちてしまうのが残念です。
 せっかくの海外旅行のお土産ですから、やっぱり満足できるペンが欲しいのです。
 それでも、中国ペンはパクリに徹して、日陰の身を通していればたいした摩擦は無かったのですが、近頃はやけに前面に出てきて、Eskesen社の市場を侵食し始めています。
 その極めつけが「東京ディズニーシー」で売っているフロートペンです。

 これがそのペンですが、ペン先の部分を除いてEskesen社のツイスト&クリックとそっくりなのです。
 殊に針金を曲げて突き刺したようなクリップ部の独特のデザインをそっくり真似ているのはいただけません。
 これでは喧嘩を売っているようなものです。
 中国ペンもいよいよディズニー・プロダクションに認められる品質になったのなら、デザイン面でも独自の商品を出して、堂々と対抗してもらいたいものです。


 これはアメリカの「Ritepoint」というメーカーのフロートペンです。
 ペンの頭に長さ3cmほどの短い水槽が付いていて、その中に石炭のかけらが二つ入っています。
 バレルに書かれた説明文を読むと、これはオハイオ州で採れた石炭で、本物であることを地元のガールスカウト団体が証明する、と書かれています。 フフフ、アメリカ人って、変わっていますね。
 「Ritepoint」社はこのような物体入りというのがお得意なようで、私は「バナナ入り」とか「ピーナツ入り」などというのも持っていますよ。


 これは「バカルディ」という銘柄の、柑橘系のラム酒のフロートペンです。 中に入っている茶色い液体は本物のラム酒だと言うのですが、マユツバものです。 それが他の液体(水かな?)と混じり合わずに2色の層を作っています。 そしてその中を酒瓶をかたどったフローターが漂うのです。
 台湾製だそうですが、太短くて不格好で、ふたはキチッと閉まらないし、インクもちゃんと出ないし、製造会社も分からないし、どうも困ったものです。しかし面白いのです。


 同じ台湾製でも、これはもっと使いやすくてきちんとしたペンです。 そしてすごく面白いのです。
 ペンを傾けると、左側のパネルの後ろから3枚のパネルが次々に出てきます。 その動きがまるでふすまを閉めていく感じなのです。
 フロートペンという小劇場の幕をゆっくりと閉じて行くような感じで、思わず息を飲んでしまいます。
 同じ中国人といっても、真似をしてばかりの中国製と、ユニークな台湾製とで大きな違いがありますね。


 このペンは最近よく見かけますね。
 ボールペンの頭にでっかい水槽が付いていて、このペンのように帆船が入っていたりイルカが泳いだりしています。 岡山では桃太郎がフロートしていました。
 フロートペンの仲間ではありますが、ちょっと不格好ですね。 それに重心が上にあるので書きにくいし、携帯性にも問題があります。 Eskesen社のペンのように、あくまでも実用性を重んじるというのとはちょっと違う世界のようですね。 あえて分類すれば、「グリコのオマケ」に近いかな? いや違うかな・・・
 しかし、このペンなどは帆船の「日本丸」(横浜の港に係留されて博物館になっています)が立体的に上手に作られていて、結構スグレものだと思います。
 日本製ですが、製造会社までは分かりません。

 ところでこんなものを集めているのは私くらいだろうと思っていたら、舞台演出家の宮本亜門氏が集めていることをテレビで知り、大いに驚きました。 変わった人がいるものです。
 世界に目を向けると、フランス人のMafhoud Zanatさんが、13,000本のフロートペンを持っていると、ギネスブックに記載されています。 いやはや、世界は広いですね。