【 トライボロジー 】
「摩擦・摩耗および潤滑に関する学問と技術」
★トライボロジーの由来★
■古代エジプトや古代ローマ時代などに作られた巨石を用いた石像やブロックは、どのように運ばれたのでしょうか?■古代エジプトの壁画に巨像運搬が描かれています。それによると、先端に丸みをつけたソリに巨石を乗せて、道とソリの間に潤滑材を撒いています。また、レールや丸太を引いたりして摩擦を減らす工夫をしています。

■Tribologyとは、ギリシャ語の「摩擦する」と、学問を表す接尾語の「logy」の合成語です。■1966年にH. P. Jostにより纏められた「Jost Report」で初めて「Tribology」という用語が使われました。

★Jost Report★

■Jostレポートは省資源・省エネルギーを進める方策として摩擦や摩耗、潤滑に関連する7項目(@保全費・部品費の節減、A耐用年数の延長による設備投資の節減、B破損による波及効果の節減、C労働力の節減、D稼動率、機械効率の向上による設備投資の節減、E摩擦減少によるエネルギー消費の節減、F潤滑油経費の節減)についての経済効果を明らかにしたものです。

■これらの項目における経済効果の推定結果では、イギリスにおいては当時の経済規模で5億1500万ポンドほどの節減が期待できることが報告されています。■これを受けて日本においても同様の調査を行ったところ、日本においては1兆9900億円の経済効果があるという報告があります。■その後2011年では、国民総生産(GNP)の約3%(17兆3000億円)の経済効果があると報告されました。

■このように経済効果が示されると、本来、省エネルギーや省資源を趣旨として検討始めた上記の7項目の経済的な重要性がいかに大きいか改めて実感させられることでしょう。■このような観点で摩擦・摩耗や潤滑に関連した技術的な課題、学問の追求と解明を主題とするプロジェクトの必要性が叫ばれました。その際に用いられたのが、「Tribology」という言葉です。

★トライボロジーの定義★
■トライボロジーとは、「相対運動をする二物体間の相互作用を及ぼしあう表面およびそれに関連した実地応用の科学と技術」です。■トライボロジーは摩擦や摩耗に関することを学問的に検討(研究)するだけではなく、実用の場において役に立つ「技術」であることが求められています。■簡単にいうと、機械や設備を扱うときに問題となる「摩擦・摩耗および潤滑に関する学問と技術」ということになります。

■一般に潤滑というと、摩擦・摩耗を小さくすることのように捉えられています。しかしトライボロジーでは単に摩擦・摩耗を小さく抑えるということではなく、「適正な」摩擦・摩耗を得ることが目的とされ、個々の条件における摩擦・摩耗の最適解を求めることが必要とされます。■摩擦・摩耗の値が条件に合った最適解で維持されると、その機械システムは要求される機能を最大限に発揮するばかりではなく、その性能の維持も保証されます。

★トライボロジーの広がり★

■従来なら、設計条件の厳しい金属部品や自動車のエンジンやコンプレッサーといった分野でしたが、家電製品から生活用品、地震予知、医学分野では人工関節等、様々な分野に広がっています。トライボロジーが扱う対象によって以下のような分類もされます。
●ナノトライボロジー(nano-tribology):原子、分子、結晶レベルでの相互作用から摩擦を研究する分野。
●スペーストライボロジー(space-tribology) :宇宙空間での摩擦摩耗現象や、ロケット、人工衛星、宇宙ステーションなどの潤滑技術を研究する分野。無重力、真空の条件を考慮する必要がある。
●バイオトライボロジー(bio-tribology) :生体における摩擦・摩耗・潤滑を対象とする分野。人工関節などの開発に必要とされる。
●ペーパートライボロジー(paper-tribology) : ATMの紙幣やプリンターの紙を対象とする分野。
●ジオトライボロジー(geo-tribology) :地球物理学や土質力学に関連して、地震におけるプレートの滑りや豪雨時の土砂滑りなどを対象とする分野。