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【scene1】 ・・・・・・・・・・>sample start 馬超を幕の中へと迎え入れ、趙雲は馬超と差し向かいに座る。馬超が二つの杯に酒を注ぎ入れ、一方を趙雲へと差し出した。それを趙雲は受け取り、二人で杯を軽くぶつけた後、口元へと運ぶ。 「しかしこの暑さには参ったな……。兵達も慣れない気候の中よく踏ん張ってくれたものだ」 馬超がしみじみ呟くのに、趙雲も頷いて同意を示す。 「本当だな。こうも高温多湿だとじっとしていても体力が奪われていく気がする」 それでも戦には勝利することが出来た。辛い状況だったからこそより勝利の喜びも大きい。 杯を傾ける趙雲の顔を見つめていた馬超は、そんな愚痴めいた趙雲の言葉に小さく笑みを零す。 「長坂の英雄でもそういう風に感じることがあるんだな」 「お前は私を化け物とでも思っているのか。私とて疲れることくらいある」 鼻白む趙雲に、馬超は「そう怒るな」と笑って、そっと片手を伸ばしてきた。 そのまま馬超の手は趙雲の頬に触れる。 「その疲れのせいか? 少し顔色が悪いぞ」 訊ねる馬超の口調は軽い。だがその瞳には気遣わしげな色が浮かんでいる。 馬孟起という男はいつもこうだ。 からかうような物言いを普段からする。だがそのくせ相手のことを良く見ている。 確かに趙雲はいつになく身体が重く感じていた。ただそれは、慣れぬ気候と土地での長期の戦でいつも以上に疲労がたまってるだけのことだろう。大騒ぎするようなことではなく、普段通りにしていたつもりだ。 だというのに、馬超には易々とそれを見破られてしまった。 馬超とて趙雲と同じで、将軍として部隊を率いて戦場を駆けまわっていた。なのに、馬超は疲れた様子などまるでなく、上手くそれを隠しているようでもない。同じ男として、蜀の将として、それが癪に触った。 けれど、馬超の心配そうに向けられる眼差しに、八つ当たりめいた趙雲の苛立ちはすぐに消えてしまう。 ・・・・・・・・・・>sample end -------------------------------------------------------------- 【scene2】 ・・・・・・・・・・>sample start 趙雲が見舞いに来てくれた相手に現状の国の様子を訊ねても、そんなことは気にせず今はゆっくり休むことが大事だと言われるか、はぐらかされるだけだった。 腫れ物に触るような周囲の対応は、趙雲をより惨めにさせた。 誰よりも自分自身が一番理解していたが、もうこの国にとって自分が必要のない存在だと周囲からも突きつけられているように思える。 そんな筈は無い、周りの人々は本当に自分を心配し、気遣ってくれているからだと打ち消しても、その疑念は完全には拭い去れないでいた。 結局そういった状態が良くなかったのだろう、趙雲はここのところ体調を崩すことが多くなっていた。 それでもせめてこれ以上弱いところを見せたくないとの思いから見舞いに訪れてくれた相手との面会を断ることもしなかったし、様子を訊ねられれば「大丈夫だ」と懸命に笑ってみせた。 その無理が余計に体調を悪化させるという悪循環に陥っていると分かっていても……。 そんな中でただ一人馬超だけは城での出来事や調練の様子など、趙雲が求めれば誤魔化すようなことはなく話してくれた。趙雲の体調を常に気に掛けてはくれるが、余計な慰めを口にするでもない。そのことが趙雲にとっては数少ない救いだった。 けれど日を追うにつれ、馬超が何事か考え込むようになったことに趙雲は気付いていた。執務の合い間を縫っては、趙雲の邸を訪れていたというのに、その回数も減ってきた。 その理由ならば、聞かずとも趙雲には簡単に推察できる。 馬超にとって自分の存在が段々と煩わしくなってきているのだろう。 共に戦場に立てる訳でもなく、鍛錬で槍を合わせることもできず、遠乗りに出ることもできない―馬超にとっては同じ武人としても、情人としても、自分は何の面白みもない存在になってしまったに違いない。 ・・・・・・・・・・>sample end |
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