おまえは知っているだろうか。 おまえが隣に居ることで。 おまえの寝顔を見ることで。 おまえの吐息を聞くことで。 俺の心が安らぐことを。 おまえがくれるぬくもりが、嬉しいことも。 おまえの温かさに触れて、俺も優しくなれることも。 望むらくは、おまえと在り続けること。 おまえを守れるほど、おまえと生きていけるほど強くあること。 そして、おまえがくれる優しさを、いつかはおまえに…… 現の煌 朝の目覚めを予告する小鳥の囀りによって、馬超は重く圧し掛かる瞼を開いた。 額に手を遣り、開かれた窓から差し込む光を遮り、隣に躰を向ける。 予想では眠っているはずの恋人は、既に目を覚ましていた。 「おはよう、孟起」 恋人は明るい微笑みを向けて、お決まりの朝の挨拶を告げた。 久しい休暇を過ごす彼らは何も身に纏ってはいない。 会えなかった時間を埋めるかのごとく、昨夜は激しく愛し合った。 それはまるで覚めやらぬ夢のようなのか。 はたまた未だ夢見心地の中なのか。 馬超は眠たげに返事を告げて、再び瞼を閉じた。 それから間を置かずして、馬超の口元に何かが触れる。 薄っすらと瞳を開いてみれば、恋人と唇が合わさっていた。 「これでもまだ起きないか?」 苦笑を浮かべる恋人を見上げて、馬超は唇を緩ませた。 まだ途中だった彼の夢の続きを見たかったのだが。 本人を前にして、そうするわけにはいかないようだ。 「さすがに参った。子龍の望みどおり、起きるとしよう」 趙雲に笑う暇も与えず、馬超は起こしたばかりの躰を沈めた。 恋人の躰をしっかりと抱擁して、甘くしっとりとした口づけを施す。 唇の感触や触れた箇所から伝わる温かさが、確かに彼の存在を感じさせて。 馬超の鼓動は自然と速まり、その心には嬉しさが募っていく。 ゆっくりと唇を離して、互いを抱擁したまま二人は見つめ合った。 「おまえの夢を見た」 「私の夢?」 「聞きたいか?」 「もちろんだ」 見たままの夢の内容を耳元で囁けば、趙雲は頬を真っ赤に染めあげて恥ずかしそうに笑んだ。 そんな彼が愛しくて。 微笑みをくれる彼が恋しくて。 馬超の唇は、独りでに大きく綻ぶ。 ゛永遠の時間を二人で過ごす夢を見た゛ それはまさに理想であり、願ってやまないことであれども。 現実の時の流れに勝るものはないと知っているから。 嬉しい夢は、現実でこそ輝くものだから。 「夢もいいが、やはり現のおまえがいい」 高らかな笑い声をあげて、楽しげにじゃれ合う二人。 ちょっとしたことにも、互いの想いを感じ合い、愛しさが込み上げる。 恋人同士の今では些細なことなれど、それは幸せを噛み締めさせるもので。 「甘えてるのか?」 「…少し」 「珍しいな」 「たまには、な」 長らく逢瀬を楽しめなかった、と馬超は不満げに語る。 とはいえ、それも一週間程度のことだが、それでも彼らには責務を放り出したくなるほどの時の流れであったことに違いない。 普段はしないことも、恋人の前でなら素直に曝け出せる。 否、愛しい人だからこそ、ありのままの自分を見せられるのだ。 「おまえに触れることが…俺の保養だ」 「私もだ」 「どれだけおまえに会いたかったか」 「私も会いたかった」 着飾ることのない、率直な気持ち、その想い。 互いの胸に躰を預け、ぬくもりを感じ合う二人の表情は至って穏やかだ。 戦場では鬼とすら化す彼らも、愛すべき者は優しく包み込む。 それこそ、争乱を生きる彼らにとっての、最高の悦びであり幸なのだ。 「子龍」 「…ん?」 「愛してる」 「…孟起…」 こうして面と向かって告げられるのは、思い掛けないことだったのか。 またもや頬を赤く染めた趙雲に唇を重ねて、馬超は優しく口づけをした。 ゛私も愛してる゛ その言葉を聞かずとも、彼から愛されていることはわかっているから。 ならば、己の想いの全てを、彼に伝えたい。 心からの想いを伝えよう。 「子龍、俺はいつかおまえに…」 「…孟起?」 「おまえが俺にくれたものを…おまえにも…」 「わかっている」 その心は終わりまで語られることはなかったが、その代わり、趙雲は微笑んで告げた。 馬超の想いを知っていると。 彼が趙雲を想っているように、趙雲も彼を想っているのだから。 「あなたがくれたものを、あなたがくれた強さを、私からあなたに…」 「…子龍」 「これからもあなたと共に生き、いつかは…」 「そうだな」 与えられた優しさを抱き。 与えられた強さを抱いて生きていく。 そうすることで、想いは強い糧として、生きるための源にもなる。 二人が共に歩み続けるなら、それは猶のこと。 「私の想いはあなたの想い、あなたの想いは私の想い」 馬超はゆったりと唇を緩ませて、力強く頷いた。 未来をも見据える彼らの瞳は、眩いほどに輝きを放っている。 その眼差しを宿す互いの存在が、彼らには何よりも煌いたもの。 「いつまでも、共に…」 言葉が告げられると同時に、唇も合わさる。 今度のそれは情熱を灯らせるものとなり、二人は躰を重ねた。 彼らを繋ぐ熱は、煌かんばかりの彼らの想いの全てだった。 現の煌 終 ----------------------------------------------- 「Meconopsis」の深月玖苑サマより当サイトの 一周年記念に頂きましたv 久々の休暇を共に過ごす二人をリクさせて頂きました〜。 甘〜い二人の雰囲気に私も幸せにどっぷり浸りましたvvv 素敵なお話をありがとうございました!! |
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