100題 - No12

隔て
―――
庭に出て、空を見上げている趙雲の元に馬超が訪ねてきた。
だが趙雲は馬超の訪問に気付かず、熱心に夜空を眺めている。
「趙雲殿」
声を掛けると、趙雲は弾かれたように馬超を振り返った。
「馬超殿…」
「そのように熱心に何をご覧になっているのです?」
馬超は趙雲の隣に並び立つ。
「今日が何の日かご存知ですか?」
趙雲の問いに、馬超はしばし考え込んた後、首を振る。
「今日は…離れ離れになった恋人達が一年に一度出逢えるという言い伝えのある日なのです」
言って趙雲は満天の星を指差す。
「あの帯状の星々が川を現していて、普段はその川が二人を隔てているのですが、今日だけその川に橋が掛かり二人は会う事が許されるのです」
馬超もまた空を仰ぐ。

空に横たわる巨大な川…。
それに隔てられた恋人達…か。

しばらくそうして星を眺めた後、馬超はおもむろに口を開いた。
「俺なら……我慢できません」
「?」
きょとんとして馬超に視線を移した趙雲に、馬超は微笑かけた。
「一年に一度しか会えないなど…俺は耐えれない。
毎日でも会いたし…触れたい…抱きしめたい。
俺ならどんな川が目の間に横たわろうと、その時を大人しく待っているつもりはありません。
船を用意してでも…もし船が壊れたなら泳いででも絶対に川を渡る。
そんなもので隔てられる程、俺は潔くもなければ甘くもない…」
馬超の言葉に趙雲はクスクスと笑い出した。
「貴方らしい…。
…けれど私も同じこと考えていたと言ったら貴方は信じてくださいますか?
私もきっと自分の力でもって川を渡ります。
何であっても私の気持ちまでは隔てられませんから」
どちらからともなく引き寄せられるように二人は抱き合った。
「俺は絶対に貴方を離しません…」
馬超の囁きに応えるように趙雲は廻した腕に力を込めた。

星の恋人達を隔てる天の川の下、見つめあった二人は静かに口付けを交わした―――





written by y.tatibana 2003.07.07
 


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