N-side - No3 |
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馬超は最高に不機嫌だった。 ううーっ、頭痛ぇ…。 寒気はするし、熱は下がらないし。 あの大魔王め…、容赦なく水ぶっかけやがって!! 酔いが醒める所か危うく永遠の眠りにつく所だったじゃね〜か! この三国一の男前(←思い込み)の俺様がそんなことになったら世界的大損失だっつ〜の。 おまけに俺の(←激しく思い込み)趙雲殿まで強奪していきやがって! くっそ〜、腹立つぜ!(怒怒怒) 自室の寝台で毛布に包まりながら、昨日趙雲に誘われ行った屋台での出来事を思い出して馬超は悪態をつく。 自分が趙雲を酔わせてしようとしていた邪まな考えはすっかり棚上げして。 戸を叩く音がして、家人が外から馬超に声を掛ける。 「馬超様、お客人がお見えになっておられますが、如何いたしましょう?」 「あぁ?!客? 帰ってもらえ! 俺は今さいこ〜に、気分が悪い!!」 怒鳴ると余計に頭が痛む。 「ですが……」 何故か言い澱む家人の言葉に、馬超はキレた。 「うっせーっ!! どこのどいつか知らねぇが、おととい来やがれって言っとけ!!」 すると戸の外から聞こえてきたのは、家人とは別の声。 「風邪を引かれたと伺い、お見舞いにと思ったのですが…。 ご気分の優れない時に突然お邪魔してしまい、申し訳ありませんでした…」 「えっ…、もしかして…ち…趙雲殿〜〜〜!?」 頭の痛みもどこへやら。 馬超は寝台から起き上がると、猛ダッシュで戸を開けた。 が、そこに立っていたのは家人のみ。 「趙将軍でしたら、先程の言葉にひどくショックを受けたご様子で…。 急いで帰られてしまわれました…」 う…嘘〜。 趙雲殿ーーー、誤解です! 誤解なんですってばーーー!!(絶叫) もちろんその馬超の叫びが趙雲に届くことはなかった―――。 趙雲はとぼとぼと城の回廊を歩いていた。 馬超殿…やっぱり怒ってらっしゃるんだ。 当たり前ですよね…。 私が馬超殿をお食事に誘っておきながら、結局先に帰ることになってしまったんですから…(悲) あんなに馬超殿喜んで下さっていたのに。 今度こそ本当に私の事お嫌いになってしまわれたでしょう…。 「おや…趙雲殿ではありませんか。 ふふっ…どうなさいました? なにやら沈んでいらっしゃるようですが?」 いきなり後ろから掛かる声。 声を掛けたのは諸葛孔明その人だった。 相変わらずの神出鬼没振りである。 普通の人間ならば、まず間違いなく寿命が3年は縮まった筈だ。 何せ気配を全く感じさせず、音も立てずに背後に忍び寄るのだから。 恐らく三国広しと言えども、諸葛亮を相手に平然と対処できるのは趙雲くらいなものだともっぱらの噂である。 案の定、趙雲は驚いた様子もなく、後ろの諸葛亮を振り返った。 「軍師殿…。 実は先程馬超殿のお屋敷へお見舞いに伺ったんですが、とても昨日のこと怒っていらっしゃるみたいで…。 会って頂けませんでした…」 「馬超殿の所へ見舞いに!? いけません!! それはいけませんよ、趙雲殿!」 珍しく声を荒げる諸葛亮に、流石の趙雲も少し驚いたらしく目を丸くしている。 「…そう…ですよね。 昨日の事を考えれば、会って頂けないのも当然ですよね…」 「何を言ってるんですか! (あの馬鹿の性質の悪そうな)風邪が(大切な)貴方にうつったりしたら大変じゃないですか! 貴方はこの国(=私)にとってなくてはならない方なのですよ…。 そんな貴方にもしもの事があったら…私は…」 言いつつ、諸葛亮は悲しげに目を伏せ羽扇で口元を覆い隠す。 もちろん覆い隠したその口元はしっかりと笑っている訳だが、趙雲は諸葛亮の計算通りばっちり勘違いしたようだ。 「軍師殿…。 私なんかの為にそれほどまでお心遣い頂いて…」 などと感動している。 「ふふっ…、この国の丞相として当然のことですよ」 「ですが、軍師殿! やはりこのままという訳には参りません。 許して頂けるまで、伺うつもりです」 「! いけませーん! だいたい元はと言えば馬超殿が善からぬことを考えて酔っ払った挙句、貴方に迷惑を掛けたのが悪いのです」 「善からぬ事???」 怪訝な顔をする趙雲に、諸葛亮はひとつ咳払いをした。 「…いえ、こちらの話です。 …貴方は本当にお優しいですね、趙雲殿。 分かりました…もう止めはしません。 ふふっ…馬超殿に水を掛けさせたのは私ですからね。 私からのお詫びの品も届けて頂けますか? すぐに用意致しますので」 諸葛亮はそう言って人の悪い微笑を浮かべた。 だが生来人を疑う事を知らない趙雲にはその微笑が馬超を気遣っているようにしか見えなかった…。 「はい! 明日また馬超殿を伺うつもりですので、その時にお渡しいたします。 きっと馬超殿もお喜びになられると思いますv」 諸葛亮から渡されたのは竹筒だった。 なんでも体に良い薬草を煎じた飲み物が入っているらしい。 礼を言って、趙雲は城を辞し、帰路に着いた。 本当に軍師殿は良い方ですよね〜v 私の事も馬超殿の事もあれ程心配して下さって…。 …それにしても、明日は馬超殿会って下さるでしょうか…(不安) そんな事を考えながら自分の屋敷前に着いた時、趙雲は門扉に立つ人影に気付いた。 「えっ…、馬超殿…?」 趙雲が駆け寄ると、門扉に凭れて俯いていた馬超はゆっくりと顔を上げた。 熱のせいか顔は赤く、息苦しそうだ。 だが趙雲の顔を見た馬超は、安心したようにゆっくりと微笑んだ。 「折角趙雲殿がお見舞いに来て下さったのに、俺あんなこと言ってしまったので…。 趙雲殿をとても傷つけてしまったんじゃないかと思うと、居ても立ってもいられなくなりました」 「馬超殿…そんな…。 私の方こそ昨夜は申し訳ありませんでした…。 馬超殿がお怒りになるのは当然です…」 「趙雲殿のせいなんかじゃありません! 俺が怒っていたのは、貴方ではなく…あの腹黒…ぐ…ん……し」 言いかけて、馬超の体がグラリと傾いた。 「馬超殿!!」 慌てて趙雲がその体を支える。 体が熱い。 余程熱が高いのだろう。 「馬超殿! しっかりして下さーーーい!!」 馬超の耳に届く趙雲の声は段々遠くなっていった―――。 冷やりとした感覚に、馬超は目を覚ました。 「あっ、馬超殿…お気付きになられましたか?」 心配そうに覗き込む趙雲の顔。 「ここは…?」 「私の邸です。 …馬超殿、お倒れになってしまわれたので…。 ご気分は如何ですか?」 「大丈夫…です。 すみません、ご迷惑をお掛けしたみたいで」 額には濡らした布が載せられている。 先程感じた冷たさはこれだったのだろう。 「迷惑だなんてとんでもありません。 体調がお悪いのに、この寒い中わざわざお越し頂いて…。 どうかこちらでゆっくりとお休みになって下さい」 えーーーっ! マジっすかーーー! 趙雲殿と一つ屋根の下で夜を過ごせるなんてーーー!!(興奮) 「馬超殿?! 顔が真っ赤ですよ…、もしかして熱が上がってきたのでは?!」 趙雲は馬超の額の布を取ると、自分の額を馬超の額に押し当てた。 …!! ぬおーーーっ! 趙雲殿が…俺に触れているーーー! し…しかも眼前どアップで趙雲殿の顔がーーーっ!!(大興奮) うわ〜、うわ〜。 もう俺このまま死んじゃってもいいカモ。 あの腹黒軍師のせいでとんでもない目にあったけど、これって結果オーライってやつなんじゃ…。 がはははは…・感謝するぜ、天才軍師・サ・マv 「凄い熱ですよ!馬超殿! 大変です…早く薬師を呼ばないと…」 「だだだだ…大丈夫です、趙雲殿! 薬師よりも趙雲殿が側に居てくれた方が俺…・」 どさくさに紛れてそんな事を言ってみる。 「??? そうなのですか? 私が側にいても何も出来ませんが…。 …あっ! そうでした!」 趙雲は急に何事かを思い出したようで、側の円卓の上に置いてあった竹筒を手に取った。 「先程軍師殿が馬超殿にとおっしゃられて、私が預かってきたんです。 なんでも体にとてもいい薬草を煎じたものが入っているとか…。 軍師殿も馬超殿のこととても気になされていましたよ」 何だ…あの大魔王も殊勝な所があるじゃん。 俺が思ってる程、性格捻じ曲がってないのかもなぁ〜。 今度会ったら礼の一つでも言ってやるか。 趙雲が差し出してくれた竹筒を受け取り、馬超は中の液体を一気に飲み干した。 ▲□※♀○∞☆○♂△■※♀○♭●!! 「馬超殿!! どうされたんですか??? 今度は顔が真っ青に…。 馬超殿ーーー!」 次の瞬間馬超の意識は闇へと落ちていった―――。 馬超が再び目を覚ました時、窓からは日の光が差し込んで来ていた。 眩しさに思わず目を細める。 …もう朝? 途端に馬超の意識は覚醒した。 なにーーーーっ! 趙雲殿とめくるめく夜の時間を過ごすつもりだったのにーーー。(←妄想) あの大魔王めーーー!(怒) とんでもないもの飲ませやがって! この世のものとはとても思えない味がしたぜ…。 一体…何が入ってたんだよ…(怯) くそー、一瞬でもあいつに感謝した俺が馬鹿だったぜ!!(後悔) おまけに何だか胸の辺りが苦しい…。 も…もしかして呪い?! 横たわったまま恐る恐る馬超は目線を胸の方へと移動させる。 それが目に入った瞬間、強張っていた馬超の表情がふっと和らいだ。 そして自然と優しい笑みがこぼれた。 ―――趙雲が馬超の胸に頭を預けて眠っていた。 ずっと俺に付いていて下さったんですね…。 俺の気持ちはなかなか伝わらないみたいだけど、貴方のそんな優しい所がとても好きなんです。 とてもとても―――。 馬超は再び目を閉じる。 胸に感じる趙雲の温もりは、体だけでなく心も暖めてくれているようで。 そうして馬超は安らかな眠りへと引き込まれていった―――。 written by y.tatibana 2003.03.11 |
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