新た
なる風
Act2
翌日の夕方、宣言どおり現れた響也に連れられ、法介はタクシーで彼の住居へと向かった。
しかし、どことなく響也の様子は変だった。
別段不機嫌であるとか、怒っている風ではない。
窓際に頬杖を付き、何か考え込むように車中から窓の外を眺めて、法介に話しかけるでもない。
「あのー、ご迷惑だったらここで降ろしてもらっても一向に構いませんよ、牙琉検事」
昨日は勢いでああいったものの、やはり面倒なことになったなと思っているのではと、法介は考えたのだ。
一人暮らしだからとて、子供でも老人でもない若い男が、腕の骨折くらいで大事に至ると、本気で考えている訳ではあるまい。
あれは彼流の、一般人には理解できない冗談の類だったのだろう。
だが自分が上手く切り返せなかった為に、引き返せなくなってしまったのだと。
しかし、法介の想像に反して、響也はゆるゆると首を振った。
「いや、別にそんなこと思っていないさ。
少し担当している事件のことで、悩むことがあってね……気にしないでおくれよ」
そう言って、法介の方をちらりと一瞥しただけで、再び外へと視線を戻し、響也は沈黙してしまう。
法介の知る響也らしからぬ態度だ。
いつも自信に満ち溢れて、常に余裕を漂わせる笑みを浮かべている。
年齢はそう変わらないのに法介のことなどてんで子供扱いで、ことあるごとにからかってくる。
そんな彼でも思い悩むことがあるのだと知って、法介は安心した。
天才と称される彼のことが少し身近に感じられたからだ。
そしてそんな彼が頭を悩ませている事件が、どんなものなのか気になった。
お互いの立場を考えると、それは聞くべきではないことは重々承知していたが。
(ううっ……しかし沈黙が重い……)
今更ながら、是が非でも断っておけば良かったと、法介は肩を落とす。
このままずっとこの状態が続くのだとすると、腕が治るよりも先に、胃痛にかかってしまいそうだ。
「やっぱり、俺……」
「構わないと言っているだろう」
法介の言葉は、響也のやや強めの口調で遮られてしまう。
はっとすぐに我に返ったらしい響也が、取り繕うように笑みを見せた。
「ゴメンね……昨日あんまり寝てないから、ちょっとイライラしているみたいだ。
本当に君が来ることを、迷惑に思っている訳じゃないから。
おデコくんの一人や二人くらい、この僕が面倒見れない訳ないじゃないか」
どうやらいつもの調子が戻ってきたらしい。
茶化すようなもの言いが、その証拠だ。
丁度法介が一息ついたところで、響也が住んでいるというマンションに到着した。
タクシーから降りた法介が、目の前に聳え立つ建物をぽかーんとした様子で見上げる。
見るからに金持ち御用達といった風情のマンションだ。
法介が暮らすワンルームとは、全くもって違う。
「検事って儲かるんですねぇ……」
しみじみとそんな感想を漏らした法介に、響也はくすくすと笑った。
「ま、検事云々というよりも、僕のサイノウってことかな。
意識なんてしなくても、勝手にイロイロなものを惹き付けてしまうんだからさ。
嫉妬するだけムダってものだよ、おデコくん」
「嫉妬なんてしてませんよ!」
響也は、すっかり元通りになったようだ。
からかわれ、小馬鹿にされるのは御免被りたいが、やはりこの方が響也らしいと法介は思う。
オートロックの玄関を入ると、まるで高級ホテルのようなロビーが広がり、またもや法介は圧倒されてしまう。
警備員らしき人間までいる。
そんな法介をエレベータに乗せ、響也は取り出したカードをパネルに差し込むと、エレベータが動き出した。
階層を指示するボタンなどはなく、おそらくカードを使えばその住人の部屋がある階までエレベータが設定されるのだろう。
カードがなければエレベータは動かないし、住人でも関係のない階には行くことができないようになっているということか。
頭上の電工パネルが最上階を指し示した時、エレベータは止まり、静かに扉が開いた。
(さ……最上階かよ)
そして案内された響也の自宅に、三度法介は驚かされた。
玄関からして、法介のワンルームのそれと比べると優に三倍はありそうだ。
磨きぬかれた全面フローリングの床に、汚れ一つないような真っ白な壁、高い天井。
モノトーンで揃えれた家具と、明るさが適度の抑えられた照明が、広い室内を落ち着いた空間に演出している。
通されたリビングだけで、法介の暮らす部屋が全て収まりそうにさえ思えてしまう。
「適当に座ってよ」
法介に代わり、法介の荷物が入ったバッグを運んでくれた響也が、床にそれを降ろし、キッチンへと向かう。
そう言われ、突っ立っているのも間抜かなと、落ち着かない気分で法介は高そうな革張りのソファに腰を下ろした。
成歩堂の事務所にあるソファとの座り心地は雲泥の差だなぁ……などと思いながら、法介は改めて四方を見渡す。
家具や電化製品は一通り揃えられているが、何故だろうあまり生活感がない。
響也の人となりから考えて、もっと派手なのかと想像していたのだ。
ギターなどの楽器の類もなく、トレードマークのようなじゃらじゃら……つまり鎖やらがディスプレイされている訳でもない。
「どうしたのさ、おデコくん?
そんなマヌケな顔をしていると、余計にサえない男に見えるよ」
物珍しそうに室内を見渡す法介を、キッチンからリビングへとやって来た響也が可笑しそうに言う。
そうしてソファーの前のテーブルに、コーヒーカップを置く。
「冷めないうちに飲んでよ」
コーヒーの良い香りが、法介の鼻腔を刺激する。
それだけで普段インスタント専門の法介でも、質の高いコーヒーだと分かる。
間抜やら冴えないやら言われたことは、もういちいち突っ込む気にはなれず、法介は捨て置くことにした。
響也の言葉に甘えることにして、法介はコーヒーカップへと無事な右手を伸ばす。
一口飲むと、やはり普段飲んでいるものとはまるで違った。
「美味しい……」
思わず法介の口から漏れた感想に、響也は満足気に笑みを浮かべた。
「案外……片付いているというか、がらんとしているんだなぁって思って。
牙琉検事の住まいというと、もっとこうなんていうかロックな感じ?……がするような部屋なんだろうと想像していたので、意外でした」
自分で言いながらロックな感じがどういうものかイマイチ理解していなかったが、とりあえず感じたままを口にする。
すると響也は小さく笑う。
「ここには殆ど寝るために使っているようなものだからね。
帰ってこない日も多いし」
こんな高級マンションが寝るためだけの場所とは、なんと勿体無い話だと、法介は小市民らしい感想を抱いてしまう。
そんな法介の気持ちを知ってか知らずか、
「まぁ自分の家だと思って、のんびり過ごしてよ、おデコくん」
響也はそんな風に気軽に言う。
だが、あまりにも自分の部屋とは違いすぎて、とてもそう思えそうにない。
響也は法介がコーヒーを飲み終わるのを待つと、ゲストルームへと法介を導く。
そこもまた広い部屋だった。
大きなベッドが設えられ、バスやトイレを除けば、ホテルのように設備は全て整えられている。
「ここが君の部屋だよ。
なんでも好きに使ってくれて構わないし、足らないものがあれば言ってくれ。
他の場所も別に自由に入ってもらってもいいし、飲み物類ならそこの備え付けの冷蔵庫に入ってるから、遠慮せず飲んでよ」
「あっ……はい、ありがとうございます」
散々からかわれて、響也に親切にされ慣れていない法介としては、彼の気遣いに恐縮してしまう。
女性にのみ、響也の優しさは発揮されるものだと思っていたのに、意外だった。
「ん……?
おデコくん、あんまり顔色が良くないね」
法介の顔を覗き込んで、響也は僅かに眉根を寄せる。
いきなり響也の顔が間近に現れたものだから、法介は思わずどきりとしてしまう。
世の女性が騒ぐのも無理はない―――端正な顔立ちがすぐ傍にあると、同性である法介ですらドギマギする。
「いやいや……別に何ともないですから」
慌てて俯いて視線を逸らす法介に構わず、響也は法介の額に手をあてる。
「熱はないようだね。
退院したばかりなのに、疲れさせちゃったね……。
少し眠った方がいいんじゃないかな?」
何ともないと言いはしたが、確かに少し疲れていた。
響也とのあまりの生活環境の違いに、びっくりするやら圧倒されるやらし続けたせいかもしれない。
法介は響也の言葉に、素直に頷くことにした。
すると、響也は室内のクローゼットの中から、パジャマを取り出す。
遠慮する法介に構わず、響也は当たり前のように着替えるのを手助けしてくれる。
実際左手が使えない状態では、ボタン一つ留めるのも苦労なのだ。
自分ひとりだと着替えるだけで夜中になってしまいそうで、正直響也の助けはありがたかった。
なにやら幼い子供に戻ったような気がして、流石に羞恥は拭えなかったが。
肌触りの良いパジャマに着替え、法介はキングサイズのベッドに身を横たえた。
病院の硬いマットとはこれまた大違いで、適度な柔らかさとスプリングが効いていて心地良い。
「すみません……牙琉検事、色々とご迷惑を……」
法介が詫びれば、響也は呆れたように溜息を落とす。
「何度も同じことを言わせないでくれよ、おデコくん。
迷惑だと思うくらいなら、君を連れてきたりしなかったさ。
そんなことより、今はゆっくりお休み」
最後は優しく微笑まれて、法介もつられて笑顔になる。
不思議なもので、そうやって響也の笑顔を見ると、今まで感じていた緊張感のようなものが解けていくのを感じた。
同時に抗い難い眠気が法介を襲ってくる。
うつらつらとなりながらも、
「牙琉検事って……男にも優しかったんですねぇ……」
そんな言葉を残し、法介は眠りへと落ちていった。
響也は眠った法介の顔をしばらくじっと見つめていたが、大きく頭を振り、どこか物憂げな溜息を吐くと、照明を落とし部屋を出て行った。
しかし、どことなく響也の様子は変だった。
別段不機嫌であるとか、怒っている風ではない。
窓際に頬杖を付き、何か考え込むように車中から窓の外を眺めて、法介に話しかけるでもない。
「あのー、ご迷惑だったらここで降ろしてもらっても一向に構いませんよ、牙琉検事」
昨日は勢いでああいったものの、やはり面倒なことになったなと思っているのではと、法介は考えたのだ。
一人暮らしだからとて、子供でも老人でもない若い男が、腕の骨折くらいで大事に至ると、本気で考えている訳ではあるまい。
あれは彼流の、一般人には理解できない冗談の類だったのだろう。
だが自分が上手く切り返せなかった為に、引き返せなくなってしまったのだと。
しかし、法介の想像に反して、響也はゆるゆると首を振った。
「いや、別にそんなこと思っていないさ。
少し担当している事件のことで、悩むことがあってね……気にしないでおくれよ」
そう言って、法介の方をちらりと一瞥しただけで、再び外へと視線を戻し、響也は沈黙してしまう。
法介の知る響也らしからぬ態度だ。
いつも自信に満ち溢れて、常に余裕を漂わせる笑みを浮かべている。
年齢はそう変わらないのに法介のことなどてんで子供扱いで、ことあるごとにからかってくる。
そんな彼でも思い悩むことがあるのだと知って、法介は安心した。
天才と称される彼のことが少し身近に感じられたからだ。
そしてそんな彼が頭を悩ませている事件が、どんなものなのか気になった。
お互いの立場を考えると、それは聞くべきではないことは重々承知していたが。
(ううっ……しかし沈黙が重い……)
今更ながら、是が非でも断っておけば良かったと、法介は肩を落とす。
このままずっとこの状態が続くのだとすると、腕が治るよりも先に、胃痛にかかってしまいそうだ。
「やっぱり、俺……」
「構わないと言っているだろう」
法介の言葉は、響也のやや強めの口調で遮られてしまう。
はっとすぐに我に返ったらしい響也が、取り繕うように笑みを見せた。
「ゴメンね……昨日あんまり寝てないから、ちょっとイライラしているみたいだ。
本当に君が来ることを、迷惑に思っている訳じゃないから。
おデコくんの一人や二人くらい、この僕が面倒見れない訳ないじゃないか」
どうやらいつもの調子が戻ってきたらしい。
茶化すようなもの言いが、その証拠だ。
丁度法介が一息ついたところで、響也が住んでいるというマンションに到着した。
タクシーから降りた法介が、目の前に聳え立つ建物をぽかーんとした様子で見上げる。
見るからに金持ち御用達といった風情のマンションだ。
法介が暮らすワンルームとは、全くもって違う。
「検事って儲かるんですねぇ……」
しみじみとそんな感想を漏らした法介に、響也はくすくすと笑った。
「ま、検事云々というよりも、僕のサイノウってことかな。
意識なんてしなくても、勝手にイロイロなものを惹き付けてしまうんだからさ。
嫉妬するだけムダってものだよ、おデコくん」
「嫉妬なんてしてませんよ!」
響也は、すっかり元通りになったようだ。
からかわれ、小馬鹿にされるのは御免被りたいが、やはりこの方が響也らしいと法介は思う。
オートロックの玄関を入ると、まるで高級ホテルのようなロビーが広がり、またもや法介は圧倒されてしまう。
警備員らしき人間までいる。
そんな法介をエレベータに乗せ、響也は取り出したカードをパネルに差し込むと、エレベータが動き出した。
階層を指示するボタンなどはなく、おそらくカードを使えばその住人の部屋がある階までエレベータが設定されるのだろう。
カードがなければエレベータは動かないし、住人でも関係のない階には行くことができないようになっているということか。
頭上の電工パネルが最上階を指し示した時、エレベータは止まり、静かに扉が開いた。
(さ……最上階かよ)
そして案内された響也の自宅に、三度法介は驚かされた。
玄関からして、法介のワンルームのそれと比べると優に三倍はありそうだ。
磨きぬかれた全面フローリングの床に、汚れ一つないような真っ白な壁、高い天井。
モノトーンで揃えれた家具と、明るさが適度の抑えられた照明が、広い室内を落ち着いた空間に演出している。
通されたリビングだけで、法介の暮らす部屋が全て収まりそうにさえ思えてしまう。
「適当に座ってよ」
法介に代わり、法介の荷物が入ったバッグを運んでくれた響也が、床にそれを降ろし、キッチンへと向かう。
そう言われ、突っ立っているのも間抜かなと、落ち着かない気分で法介は高そうな革張りのソファに腰を下ろした。
成歩堂の事務所にあるソファとの座り心地は雲泥の差だなぁ……などと思いながら、法介は改めて四方を見渡す。
家具や電化製品は一通り揃えられているが、何故だろうあまり生活感がない。
響也の人となりから考えて、もっと派手なのかと想像していたのだ。
ギターなどの楽器の類もなく、トレードマークのようなじゃらじゃら……つまり鎖やらがディスプレイされている訳でもない。
「どうしたのさ、おデコくん?
そんなマヌケな顔をしていると、余計にサえない男に見えるよ」
物珍しそうに室内を見渡す法介を、キッチンからリビングへとやって来た響也が可笑しそうに言う。
そうしてソファーの前のテーブルに、コーヒーカップを置く。
「冷めないうちに飲んでよ」
コーヒーの良い香りが、法介の鼻腔を刺激する。
それだけで普段インスタント専門の法介でも、質の高いコーヒーだと分かる。
間抜やら冴えないやら言われたことは、もういちいち突っ込む気にはなれず、法介は捨て置くことにした。
響也の言葉に甘えることにして、法介はコーヒーカップへと無事な右手を伸ばす。
一口飲むと、やはり普段飲んでいるものとはまるで違った。
「美味しい……」
思わず法介の口から漏れた感想に、響也は満足気に笑みを浮かべた。
「案外……片付いているというか、がらんとしているんだなぁって思って。
牙琉検事の住まいというと、もっとこうなんていうかロックな感じ?……がするような部屋なんだろうと想像していたので、意外でした」
自分で言いながらロックな感じがどういうものかイマイチ理解していなかったが、とりあえず感じたままを口にする。
すると響也は小さく笑う。
「ここには殆ど寝るために使っているようなものだからね。
帰ってこない日も多いし」
こんな高級マンションが寝るためだけの場所とは、なんと勿体無い話だと、法介は小市民らしい感想を抱いてしまう。
そんな法介の気持ちを知ってか知らずか、
「まぁ自分の家だと思って、のんびり過ごしてよ、おデコくん」
響也はそんな風に気軽に言う。
だが、あまりにも自分の部屋とは違いすぎて、とてもそう思えそうにない。
響也は法介がコーヒーを飲み終わるのを待つと、ゲストルームへと法介を導く。
そこもまた広い部屋だった。
大きなベッドが設えられ、バスやトイレを除けば、ホテルのように設備は全て整えられている。
「ここが君の部屋だよ。
なんでも好きに使ってくれて構わないし、足らないものがあれば言ってくれ。
他の場所も別に自由に入ってもらってもいいし、飲み物類ならそこの備え付けの冷蔵庫に入ってるから、遠慮せず飲んでよ」
「あっ……はい、ありがとうございます」
散々からかわれて、響也に親切にされ慣れていない法介としては、彼の気遣いに恐縮してしまう。
女性にのみ、響也の優しさは発揮されるものだと思っていたのに、意外だった。
「ん……?
おデコくん、あんまり顔色が良くないね」
法介の顔を覗き込んで、響也は僅かに眉根を寄せる。
いきなり響也の顔が間近に現れたものだから、法介は思わずどきりとしてしまう。
世の女性が騒ぐのも無理はない―――端正な顔立ちがすぐ傍にあると、同性である法介ですらドギマギする。
「いやいや……別に何ともないですから」
慌てて俯いて視線を逸らす法介に構わず、響也は法介の額に手をあてる。
「熱はないようだね。
退院したばかりなのに、疲れさせちゃったね……。
少し眠った方がいいんじゃないかな?」
何ともないと言いはしたが、確かに少し疲れていた。
響也とのあまりの生活環境の違いに、びっくりするやら圧倒されるやらし続けたせいかもしれない。
法介は響也の言葉に、素直に頷くことにした。
すると、響也は室内のクローゼットの中から、パジャマを取り出す。
遠慮する法介に構わず、響也は当たり前のように着替えるのを手助けしてくれる。
実際左手が使えない状態では、ボタン一つ留めるのも苦労なのだ。
自分ひとりだと着替えるだけで夜中になってしまいそうで、正直響也の助けはありがたかった。
なにやら幼い子供に戻ったような気がして、流石に羞恥は拭えなかったが。
肌触りの良いパジャマに着替え、法介はキングサイズのベッドに身を横たえた。
病院の硬いマットとはこれまた大違いで、適度な柔らかさとスプリングが効いていて心地良い。
「すみません……牙琉検事、色々とご迷惑を……」
法介が詫びれば、響也は呆れたように溜息を落とす。
「何度も同じことを言わせないでくれよ、おデコくん。
迷惑だと思うくらいなら、君を連れてきたりしなかったさ。
そんなことより、今はゆっくりお休み」
最後は優しく微笑まれて、法介もつられて笑顔になる。
不思議なもので、そうやって響也の笑顔を見ると、今まで感じていた緊張感のようなものが解けていくのを感じた。
同時に抗い難い眠気が法介を襲ってくる。
うつらつらとなりながらも、
「牙琉検事って……男にも優しかったんですねぇ……」
そんな言葉を残し、法介は眠りへと落ちていった。
響也は眠った法介の顔をしばらくじっと見つめていたが、大きく頭を振り、どこか物憂げな溜息を吐くと、照明を落とし部屋を出て行った。
2007.06.02 up